第4章 因縁の残火
その瞬間、二人は同時に宙へ跳ぶ。
ギャァァンッ!!
二つの影が空で衝突し、火花の雨が滝壺に散り落ちた。
斗亜はその光景に、言葉を失っていた。
兄と師が空中で繰り広げるのは、常人には見えぬ速度の剣閃。
空が裂けるような衝撃、風圧で木々が揺れ、滝の飛沫が押し返される。
「…やべぇな…これ…兄貴…完全に押されてるじゃん…」
ドンッ!
剣心が地に落ち、木の根元に転がる。
動かない。
頭から血が一筋流れていた。
「おーい兄貴、いつまで寝てんだよ…俺の修行時間が長くなるだろ!!」
軽く涙目になりながら、気絶している兄に文句を言う斗亜。
場にそぐわない軽口が逆に痛ましい。
「どういうことだぁ〜?」
低く響く声が上から落ちてきた。
比古が斗亜の頭をガシッと掴み、わし掴みにして睨んだ。
「…っ!?」
ガクブルと震える斗亜。
その時…。
パチッ。
剣心の目が開き、飛び起きた。
「ッ…!」
立ち上がった瞬間、頭に激痛が走り額を押さえる。
比古は鼻で笑った。
「剣心。お前はそこで見てろ。斗亜…“お前の”修行が先だな。…お前も、奥義を会得しないまま出て行ったんだ」
「ぎゃーーー!!!」
斗亜の悲鳴が滝の音に混ざり、山奥に響き渡った。
比古が指を鳴らす。
「ほれ、さっさと終わらせるぞ」
「今日じゃないとダメっすかね…?」
斗亜がジト目で見上げる。
比古はニッと笑った。
「何を今さら言ってるんだ。お前には“恨み”があるんでな」
「恨み?」
剣心が首を傾げる。
「あぁ…」
比古は拳を固めながら言った。
「斗亜がここを出て行く時、俺の酒を全部、水に変えやがった」
「あ、バレちゃってました〜?いや〜、師匠の体を気遣ってのことでしょう。ほら、体に悪いと思って~」
あははと笑いながら頭を掻く斗亜。
剣心は頭を抱えて崩れ落ちる。
比古のこめかみに青筋が浮かんだ。
「さらに…買い置き分まで水に変えやがってええええ!!!さっさとかかってこい!!!」
斗亜もゆっくりと蒼雲の柄へ手を添えた。