第4章 因縁の残火
青空は困ったように笑い、肩の力を抜く。
「主義とか難しいことは分かりません。でも…平和が好きなんです。誰だって、そうじゃないですか」
その表情は穏やかで、ひどく“普通の幸せ”に見えた。
それが、逆に眩しい。
「甘い!あんた甘すぎ!!世の中には…」
操が身を乗り出した瞬間…。
「はいはい。操は黙ってなさい。話がこじれる」
斗亜が慌てて操の口を両手で塞ぐ。
操はむぐむぐと暴れ、目だけで「放せ!」と訴える。
剣心はその様子を見て、ほんの一瞬だけ苦笑してすぐに真剣な顔に戻った。
「…承知したでござる。青空殿」
剣心は深く頭を下げる。
その動きは礼儀というより、“痛みを理解する者”の退き方だった。
「無理な願いを申し上げ、失礼つかまつった。それでは拙者たちは、これで」
「ちょっとぉ!それでいいの!?ねぇ!!」
操が叫ぶが、剣心は静かに言葉を重ねる。
「青空殿は、心から平和を願っておられる。不殺の逆刃刀であっても、それは闘いの道具…その手で打たせるのは、あまりにも忍びないでござる」
操は唇を噛む。
納得できない。
だが、剣心の声音が嘘を許さない。
「そうだな…逆刃刀探しは、また一からやり直しだ」
斗亜が肩を落とし、ふぅと短く息を吐いた。
“簡単に手に入るはずがない”と、最初から分かっていたのに。
それでも期待してしまった自分が、少し悔しい。
翌日。
操はどうしても諦めきれず、また新井家へ向かっていた。
その背中は軽いのに、足取りだけが妙に硬い。
斗亜は舌打ちしながらも、結局あとを追う。
「操…何度言えば分かるんだ。明治を平和に生きる人間に、無理やり刀を打たせても、碌なものは出来ない」
「しょうがないでしょ!刀がなきゃ困るの!もう一押しすれば…」
「“一押し”で済む問題じゃねぇんだよ」
斗亜が言いかけた、その時。
店の裏手の物陰から聞こえた声に、二人はぴたりと足を止めた。
「…なんで、あのことを話してしまったんだ…」
青空だった。