第4章 因縁の残火
その時。
「あの…どうも…」
おずおずと前へ出てきたのは、気弱そうな青年だった。
「あ…ボクが、新井青空です…」
空気が、すっと静まる。
あまりに控えめな声。だが、次の言葉ははっきりしていた。
「お話は聞きました。どうやらボクに刀を打ってほしいそうですが…申し訳ありません」
青空は深々と頭を下げる。
「ボクはもう、刀を造るのをやめたんです。どうか、そのお願いはお引き取りください」
誰もすぐに言葉を返せなかった。
拒絶は柔らかいのに、壁は厚い。
青空は顔を上げず、静かに続ける。
「ボクに刀を頼みに来たということは…父・赤空が“殺せる刀”を追い求めていたことは、ご存知ですよね」
その口調は淡々としている。
けれど、その奥に沈んだ影が、はっきりと滲んでいた。
「父は幕末、よく言っていました。“俺の刀が新しい時代を創る”と…」
青空は、言葉を選ぶように一度息を吸った。
視線は剣心たちではなく、遠い過去を見ている。
「でも、ボクは…その考えが好きになれませんでした。父の刀で、多くの命が奪われた。人を殺して、何が“時代を創る”のか…ボクには、どうしても納得できなかったんです」
その声は静かだった。
けれど芯があった。
押しつぶされそうなほどの“確信”が、淡い口調の奥に眠っている。
斗亜は、その言葉を聞きながら、そっと目を閉じた。
自分の胸のどこかが古い傷が、かすかに疼く。
青空は続ける。
まるで自分に言い聞かせるように。
「確かに、あの頃は動乱の時代でした。仕方がなかったと言われれば、それまでかもしれません」
その“仕方がなかった”に、どれほどの葛藤が詰まっているかが伝わる沈黙。
「…でも今は明治です。やっと平和が訪れた時代なんです。侍は刀を捨てました。だからボクも…」
青空は小さく頷いた。
「刀匠をやめて、生活用具を打って、平和に生きることを選びました」
「なるほど…青空さんは、父親とは違う道を選んだんだな…」
斗亜は、ほんの少しだけ口元を緩めて言った。
否定でも同情でもない。
受け止める声だ。