第4章 因縁の残火
チャプ…チャプ…。
水を汲みながら、斗亜がぽつりと呟く。
「まさか、本当に来るとはな…」
「となれば…左之助も来る可能性が高い。志々雄との闘いは、ますます厳しくなる…」
「だろうな…」
二人は静かに頷き、比古の元へ戻る。
「剣心。お前、この十年、流浪人として人助けをしながら全国を歩いていたそうだな」
比古は酒を口に含み、続ける。
「十五年も遠回りして、ようやく飛天御剣流の真の理に辿り着いたのか。それとも人斬り時代に殺めた命への償いか」
「両方…でござるよ」
剣心は真っ直ぐに比古を見据えた。
「それともう一つ。十五年前の喧嘩別れの時にも言ったはずだ。目の前で人が苦しみ、悲しんでいるのを、理由をつけて見捨てることなど、俺にはできない」
「斗亜、お前はどうだ」
比古の視線が斗亜へ向く。
「兄と同じ道を歩んできたんだろう」
「俺も同じだ…」
斗亜は剣心と同じ目で答える。
「フン…兄弟揃ってバカ弟子のくせに、ここぞという時だけは一人前に吠えやがる」
比古は立ち上がった。
「ついてこい。飛天御剣流最後の奥義…お前らに伝授してやる」
「俺も!?」
「当たり前だ」
比古は即答する。
「鈍りきった腕で、どうやって志々雄に勝つつもりだ。飛天御剣流の剣客として、あの男を放っておくわけにもいかねぇだろ。今さら新しい弟子を仕込む時間もない。俺が出張るのが一番早いが、そんな面倒は御免だ」
斗亜を睨みつける。
「特にお前だ。責任持って志々雄真実を喰い止めろ」
斗亜は小さく息を呑んで頷いた。
庵を出る間際、薫が口を開く。
「剣心。危険を承知で京都に来たの…やっぱり怒ってる?」
「半分は…」
剣心は立ち止まらずに答える。
「だが、どこかで安心もしている。志々雄一派はどこに潜んでいるかわからぬ。くれぐれも気をつけるでござるよ」
振り返らず、歩き続ける。