第3章 因縁の残響
「っ…!」
斗亜は頭を押さえてしゃがみ込む。
斎藤は煙草を咥えたまま、志々雄を睨む。
「いい加減にしろ。お前一人追いかけて日本中飛び回るのはな…正直、骨が折れるんだ」
志々雄が小さく息をする。
「なぁ…あんたも俺も、そこの先輩も同じ幕末を生き抜いた男だろ?」
視線が三人を順に舐めるように向く。
「尊皇だ、倒幕だ、攘夷だ、開国だ。だが結局幕末ってのは、戦国以来三百年ぶりに訪れた“大乱”だ。そんな時代に生まれたならよ…天下を狙ってみるのが、男ってもんじゃねぇか?」
青年と女性が、軽く拍手する。
「ところがどうだ。傷を癒して戻ってみりゃ、動乱は終わり。明治政府なんて代物が出来上がってた。男一人暗殺するのにも、列強の顔色を窺って軍一つ動かせねぇ。こんな腰の引けた政府に、国を任せられるか?」
斗亜の拳が、白くなるほど握り込まれる。
「また…あの動乱を起こすつもりか!?」
怒声が志々雄に叩きつけられた。
「あぁ」
志々雄がゆっくりと手を差し出し、拳を握る。
「そして俺が、この国を“強く”してやる」
包帯の隙間から覗く目が光る。
「それが、この国を手に入れる“正義”だ。だが、その正義のために血を流すのは、お前じゃない。血を流すのは、今の平和の中でぬくぬく生きてる連中だ」
口元が薄く笑う。
「弱肉強食…まぁ、先輩や斗亜は納得しねぇだろうがな」
「志々雄真実!」
剣心の声が鋭く響く。
「お前一人の正義で、これ以上人の血をながさせるわけにはいかぬ!」
志々雄は視線を落とした。
「俺も闘いてぇがな…闘うなら“花の京都”でやりてぇんだ。だから…」
ドゴォン!!!
畳が爆ぜた。
床下から、二メートルを超える巨体が姿を現す。
「この新月村を統治する尖角が相手をする!!」
「そうか…お前が、栄次の両親と兄を殺した男か」
斗亜が一歩前へ出る。
「兄貴、俺がこいつの相手をする」
「あぁ、分かった」
「そして、その次はお前だ」
斗亜は刀を抜いて、志々雄へ切っ先を向ける。
「覚悟しろ」
志々雄が薄く笑う。