第3章 因縁の残響
「この村だけじゃねぇ。すでに十の村が切り捨てられ、志々雄の“領地”になってる。政府は奪回そのものから手を引いた」
「え…」
操が目を丸くする。
「よく分からないけどさ!警察がダメなら軍隊使えばいいじゃない!」
理解できない、という顔のまま操が叫んだ。
斎藤は鼻で笑う。
「阿呆。西南戦争から、まだ半年だ。今また軍を動かせば、内政不安を諸外国に晒すことになる。弱みを見せりゃ、それだけで喰われる」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
操が食ってかかる。
斗亜が怒りを落ち着かせるように、ふっと息を吐いた。
「仮に軍を動かせたとしても、政治家が許さない。そういうことか…」
斎藤は一瞬だけ口角を上げる。
「今日は珍しく冴えてるな。頭でも打ったか?」
斗亜は即座にムッとし、睨み返した。
「お前は本当に失礼な奴だな」
栄次の両親を弔って、操と栄次を残し三人は別の場所に足を向けた。
斎藤の情報を頼りに着いたのは、村外れに佇む一軒の館だった。
周囲の空気だけが冷たい。
人の気配が薄いのに、妙に“見られている”感覚がある。
建物の前に、一人の青年が立っていた。
身なりは整っている。
表情も穏やかだった。
その笑みはどこか薄い。
「緋村抜刀斎さん。そして、その後継者の緋村斗亜さん。新選組三番隊組長の斎藤一さんも」
にこり。
背筋が冷えるほど、丁寧に整えられた笑み。
剣心がわずかに肩を落とす。
「気を付けろ、斎藤…あれが、大久保さんを暗殺した男だ」
「あいつか…」
「やだなぁ!今日は“案内役”ですよ~」
青年は両手を、ひらひらと振りながら言う。
武器がないことを示す仕草を見せる。
「奥の部屋で、志々雄さんがお待ちです」
「警戒したところで、事は始まらん」
斎藤は短く言い捨てる。
三人は無言で青年に続いた。
ギギギィ…。
重い扉が閉まる。
バタン。
それは、逃げ道が断たれた音だった。