第3章 因縁の残響
斎藤はそのやり取りを完全に無視をした。
「どのみち選ぼうが、京都に着きゃ同じだ。常人なら十日はかかるが、お前らなら五日で十分だろう」
その言い方は、二人の脚力も修羅場の潜り方も知り尽くしている者のだった。
背を向けながら、低く言い残す。
「遊び半分で歩くなよ?志々雄は蜘蛛の巣みてぇな情報網を張っている」
肩越しに視線だけを向ける。
「お前らの動きは、もう見られている。忘れるな、闘いは始まっている」
その背中は闇に溶けるように消えた。
残されたのは、東海道へ向かう二人だけ。
斗亜は小さく息を吐き、剣心を見る。
「兄貴、行くぞ。京都へ」
そう言って二人は別方向へ一歩踏み出した。
「斗亜?東海道はこっちでござる」
「わ…分かってるよ?」
斗亜は慌てて剣心の方へ歩みを直した。
「方向音痴は直ってないようでござるな」
「言うなっ!!」
二人は再び歩き出す。
歴史が動き始めた街道へ。
修羅と理想の狭間で揺れる闘いの地へ。
夕暮れがほどけ、夜の帳が静かに街道を包み込んでいく。
山の木々が風に揺れ、虫の声が涼やかに響いた。
街道を外れた林の中、二人は野宿の支度を整えていた。
「さてと、兄貴と野宿なんて久々だな」
枯れた枝を集めながら言った。
「そうでござるな…」
慣れた手付きで火を熾す。
焚き火が小さく爆ぜ、橙の光が足元を揺らした。
斗亜は抱えてきた枝を、どさりと下ろす。
「やっぱ野宿は、この匂いと空気だよな」
「緊張感が無さすぎるでござるよ…」
剣心は目を伏せながら、額に手を当てた。
「(皆…今頃怒っているでござろうな…)」
左之助、恵、弥彦、そして顔の顔が浮かんでは消える。
「拙者は…恨まれても仕方ない…」
「みんな…兄貴を追って京都に来たりしてな」
斗亜が笑いながら、枝をくべる。
剣心は首を横に振った。
「冗談はよせ。きっと愛想を尽かしている」
強がりと寂しさが、同じ言葉の中に混じっていた。