第3章 因縁の残響
その時…。
「あなた方も、まだ死にたくないのなら…志々雄さんに刃向かわない方が、身のためですよ?」
背後から落ちてきた声は、奇妙なほど柔らかく甘ささえ含んでいた。
二人は瞬時に振り向き、構える。
だが、そこにはもう誰も居なかった。
残っているのは、風が通り過ぎる音だけ。
斗亜は舌打ちをし、鋭く周囲を睨む。
「厄介だな…もう全国に志々雄の“影”が入り込んでるってことか…」
剣心の眼差しには、怒りと哀しみが静かに宿っていた。
ドンッ!!
川路の拳が机を叩きつけ、室内の空気が跳ね上がる。
警視庁の一室。
重苦しい沈黙を引き裂くような衝撃だった。
「これが志々雄のやり方だ!!」
川路の顔は紅潮し、声は怒りと悔恨で震えている。
「全国に配下を張り巡らせ、集めた情報で犯罪を重ねる…明治政府の力を削ぎ落とし、一斉蜂起の日まで追い込むつもりだ…大久保卿…」
握りしめた拳からは、血が滲む。
その姿は、部下ではなく恩人を失った一人の男だった。
警視庁の廊下を剣心と斗亜は歩いていた。
「川路のおっさん…相当堪えてるな…」
先ほどの様子を思い出し、斗亜がぽつりと呟く。
「元々、大久保卿に見出された男だ。心の支えを失ったんだろう…」
斎藤が深く息をつき、斗亜の言葉に応じた。
「だが、深刻なのは川路だけじゃねぇ…」
斎藤が続ける。
その目は、すでに次の戦場を見据えていた。
「大久保卿の死は、“明治政府そのものの喉元に刃が突き付けられた”ってことだ」
廊下の窓から差し込む光が、三人の影を長く引き伸ばす。
新しい時代の足場が、静かに揺らいでいた。
「これで“明治三傑”最後にして最大の主導者が消えた」
斎藤は目を細め、低く吐き捨てるように言う。
「残ったのは力不足の二流三流ばかりだ…これから確実に…」
「日本の“迷走”が始まるってか?」
その言葉の先を、斗亜がさらりと奪った。
斎藤が一瞬だけ固まる。