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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


剣心が立ちあがる。

「拙者は寝るでござる」

去り際、斗亜の頭に手を置く。

「っ!」

小さい頃の記憶が蘇る。

斗亜が不安な時、いつもやってくれたこと。

剣心の背が闇に溶けていく。

斗亜は蒼雲・鎮を見つめる。

刀に手を添えて立ち上がる。

鯉口を切って抜き切る。

刃が薄い雲から覗く月光を受ける。

指先で刃に触れる。

冷たい。

「(桜…)」

――新時代に…生きて…――

ゆっくりと目を閉じる。

「(人斬りを鎮めたまま…約束を…守れるか…)」

ゆっくりと鞘に納める。

空を見上げる。

雲がゆっくりと流れ、月をまた隠していく。

「全部終わらせて…俺は…」

その後の言葉は続かなかった。

迷いがあったからだ。

人斬りを鎮めたまま、志々雄と闘う覚悟が揺れる。



五月十四日。

空気が、妙に張り詰めていた。

澄んだ朝のはずなのに、肌に触れる風がどこか冷たく落ち着かない。

目には見えない糸が、全身を絡みついてくるような感覚だ。

剣心と斗亜は大久保に返答を告げるため、指定された場所へと足を運んでいた。

深緑の匂いが立ち上る朝。

本来なら心を和ませるはずのその香りが、今日はなぜか不穏に感じられる。

「大久保さん…」

剣心が、ふいに足を止めた。

その瞬間、斗亜の表情も強張る。

二人の視線の先には血が広がっている。

地面を赤く濡らし、黒く変色しかけた血の海の中に大久保が倒れていた。

衣は血で重く染まり、顔には恐怖と驚愕が刻みついたまま固まっている。

「な、なんで…大久保さんが…」

信じたくない現実を前にした声だった。

斗亜は目を伏せ、低く息を吐く。

わずかに震えている。

風が吹き抜け、血の臭いを運ぶ。
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