第3章 因縁の残響
翌朝。
障子越しの光。
鳥の声。
驚くほど、深く眠っていた。
こんな眠り方はいつ以来だろう。
体が軽い。
心が静かだ。
コンコン。
部屋の襖が開く。
薫が顔を出す。
「斗亜さん、起きてる?」
「あ…起きてます」
「よく眠れた?」
少し考えてから斗亜は頷いた。
「よかった」
薫が嬉しそうに笑う。
「ここ、静かでしょ?」
「え…?えぇ、そう言えば…」
「剣心がね、隣の部屋にしてくれって言ってきたのよ」
薫が何気なく言う。
「いつでも斗亜さんの気配を感じれるようにって。どういうことかしら?」
薫の言葉に斗亜は言葉を失った。
剣心の逃げ場のない優しさに、斗亜は視線を逸らす。
「世話焼きすぎだろ…」
薫はくすっと笑う。
「そういう人なのよ」
パタン。
襖が閉まる。
静かになり、斗亜は隣の剣心の部屋に視線を向ける。
斗亜の胸が締め付けられる。
「(こんな場所…知りたくなかった…な)」
置いていくのが、辛くなる。
それでも、行くと決めている。
自分の因縁相手が京都に居るから…。
着替えを済ませて居間に行くと、弥彦が飯をかき込んでいた。
「お、斗亜遅ぇぞ」
「あ…悪い…」
思わず斗亜は、弥彦の言葉に謝った。
薫が味噌汁をよそう。
剣心が茶を差し出す。
視線が合う。
隣の部屋のことも。
昨夜のことも。
ただ、そこにいる。
斗亜は湯呑みを受け取る。
指先がわずかに震える。
「(この気配を知っちまった…)」
知らなきゃ、楽だったのに。
「兄貴…」
「なんでござる」
軽い調子で斗亜が笑う。
「隣、うるさかったら壁蹴るからな」
剣心の口元がわずかに緩む。
「構わぬ」
朝の光が差し込む。
温かい。
その温かさが一人で行くと決めた斗亜には、何よりも残酷だった。
だが同時に胸の奥に、小さく灯るものがあった。
帰る場所。
壁一枚向こうの気配。
子どもの頃の約束。
まだ消えていない絆。
それを知ってしまった朝だった。