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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


胸の奥がじんわりと温かくなる。

そして同時に、締め付けられる。

「あの時、約束したよな…」

剣心の視線が静かに斗亜に向けられる。

「どっちかが先に死に向かおうとしたら、殴ってでも止めるって…今日殴ったの、その約束だかんな」

「承知している…」

「でもさ…俺の志々雄の件は見逃してくれ」

空を見たまま言う。

声は驚くほど落ち着いていた。

「俺が行くって決めただけだから」

剣心は何も言わない。

その沈黙が痛い。

責めない。

止めない。

ただ聞いている。

それが、余計に痛かった。

「兄貴はここにいろ」

言葉にした瞬間、胸の奥が軋む。

「やっと手に入れた場所だろ?」

道場の中の気配。

薫の笑い声。

弥彦の騒がしさ。

畳の温もり。

全部浮かぶ。

「大事な人を失った俺は…もう帰る場所なんていらない…」

嘘だった。

さっきまでの布団は温かかった。

だけど…言わないと揺らぐから…。

「眠れねぇんだよ…」

ぽつりとこぼれる。

初めての、本音だった。

「目閉じると来るんだ…」

桜の声。

幸太の熱。

血の臭い。

剣心は何も言わない。

ただ、そこに居る。

その気配が、子供の頃の夜と重なる。

山での修行。

寒さ。

暗闇。

布団は違えど、隣に居る兄。

それだけで安心して眠れた夜。

斗亜は唇を噛む。

「何でだろうな…」

かすれた声。

「兄貴が隣に居るだけで…楽になる」

言ってしまった。

剣心は何も答えない。

否定もしない。

ゆっくりと立ち上がる。

「斗亜…冷えるでござるよ」

それだけ言って、部屋の中へ戻っていく。

止めない。

追わない。

行くなとも言わない。

その距離が、優しい。

斗亜はしばらく動けなかった。



部屋へ戻り、布団に入ると目を閉じる。

「(静かだ…)」

目を閉じても何も来ない。

代わりにあるのは、壁の向こうの気配。

それだけで、自然と呼吸が深くなる。

自然と眠りが落ちてくる。
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