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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


その日の夜。

夜は深く、静まり返っていた。

神谷道場の屋根を渡る風が、かすかに軋む音を立てる。

斗亜は布団の中で目を開けていた。

見慣れない天井。

畳の匂い。

掛け布団の重み。

自分のために用意された部屋。

宿屋と違って、それが落ち着かない。

いや、落ち着いてしまうのが怖い。

目を閉じる。

すぐに来る。

血の臭い。

崩れた家。

倒れた柱。

床一面に広がる赤。

桜の白い手。

幸太の体温。

今日、言葉にしたから余計に思い出す。

喉が詰まる。

息が浅くなる。

胸が締め付けられる。

布団の中で拳を握る。

「(ダメだ…)」

ゆっくりと体を起こす。

布団から音を立てないように抜け出す。

足袋を履くのももどかしくて、素足のまま廊下へ出た。

夜の板張りは冷たい。

その冷たさが意識を現実へ引き戻す。

縁側の戸を、そっと開ける。

夜気が流れ込む。

腹の古傷に触れる。

鈍く疼く。

その痛みが、心地いい。

ここが“今”だと分かるから。

柱に背を預けて腰を下ろす。

庭は暗く、月明かりが白く砂利を照らしている。

遠くで犬が吠えた。

静かだ。

静かすぎる。

「眠れぬか?」

背後から声がした。

分かっていた。

振り向かない。

振り向くと、弱くなる気がして。

「あぁ…なんか落ち着かねぇ」

「そうか…」

剣心が隣に座る。

触れない距離だ。

だが、気配は近い。

子どもの頃と同じ間合い。

それだけで、呼吸が悔しいほどに少し楽になる。

しばらく何も言わない。

虫の音が続く。

風が木の葉を揺らす。

「兄貴…覚えてるか?」

斗亜がぽつりと言う。

「修行の時、夜中に抜け出して師匠に見つかったこと」

剣心の気配がわずかに緩む。

「あの時は三日間、飯抜きでござったな」

「兄貴が先に腹を鳴らしたから悪いんだろ」

「あれは、斗亜でござる」

それだけのことなのに、二人の間に小さく笑いがこぼれる。
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