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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


堪えていた涙が、ぽろりと板間に落ちる。

「斗亜さんが…そんな思いをしてきたなんて…」

震える声だ。

「ひでぇよ…」

弥彦は顔を上げられないまま言う。

「ふざけた話だ…」

左之助は低く吐き捨てるように呟いた。

「よく…生きてここまで来たわね…」

恵は、強気な表情を消したまま静かに言う。

その言葉は、医者としてではなく一人の人間としてのものだった。

斗亜は困ったように肩をすくめる。

「えぇ…まぁ…妻との約束ですし…」

軽く言ったその言葉が、かえって場の胸を締め付けた。

薫が板間の上をにじり、斗亜の前まで来る。

そして、迷いなくその手を取った。

「斗亜さん!」

涙を浮かべたまま、まっすぐ見上げる。

「ここに居てください!この道場に!」

声は震えている。

それでも、強かった。

「帰る場所が無いなんて言わせません」

「部屋…余ってるしな」

弥彦が顔を上げて、照れ隠しのように言う。

「飯も増えた方がうまいだろ」

左之助が鼻を鳴らす。

「剣さんの肉親なのよ?待ってる人がいることだけは忘れないで」

恵がため息まじりに続ける。

目は優しかった。

斗亜は言葉を失い、助けを求めるかのように剣心を見る。

剣心が静かに頷く。

剣心は、静かにそれでいて全てを包み込むような穏やかさで微笑んだ。

「宿が決まっておらぬのなら、京都に向かう前に少しでも体を休めるといい」

柔らかな声だった。

だがその一言は、斗亜の胸の奥がじんわりと染み込み凍てついていた何かをゆっくり溶かしていく。

見知らぬ剣心の仲間に“受け入れられている”温度があった。

「じゃあ…お言葉に甘えて…」

わずかに視線を伏せてから、薫の方へ向き直る。

「ありがとう、薫さん」

照れを隠し切れない笑み。

けれどその奥には、確かな安堵とほんの少しだけ救われたような色があった。

神谷道場に、静かに灯がともる。

斗亜の心にとっての“居場所”という名の、小さな灯が。
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