• テキストサイズ

緋色の誓い

第3章 因縁の残響


話を終えた斗亜は、ゆっくりと視線を落とした。

神谷道場の道場には、重い静寂が満ちている。

灯りの揺らぎが柱に影を落とし、畳の上に座る全員の気配だけが、かすかに息づいていた。

最初から薫も左之助も恵も弥彦も一言も挟まず、その話を聞いていた。

誰も動けない。

斗亜の瞳には、底の知れない孤独が澱のように沈んでいた。

「こんな俺でも…所帯を持ってたんだ…」

ぽつりと零れた言葉が、道場の空気に溶けていく。

自嘲気味に口元が歪む。

「笑うだろ…?人斬りの俺が…」

膝の上で握られた拳に、わずかに力がこもる。

斬った数だけ背負うものが増えて、償いなんて言葉を口にする資格すらないと思っていた。

それでも守りたいと思ってしまった。

朝の川辺で、不器用に笑っていた少女。

「桜…」

名を呼ぶ声は、酷く静かだった。

その名に込められた温度を、その場にいる全員が感じ取っていた。

小さな家。

囲炉裏の火の匂い。

泣き声と、笑い声。

腕の中で眠る命の重さを知った時、初めて自分が生きていいのかもしれないと思えた。

「幸太…」

かすかに声に、薫が思わず唇を噛む。

弥彦は俯いたまま、拳を握りしめている。

左之助は腕を組んだまま動かないが、奥歯を噛み締めていた。

恵は静かに目を伏せ、何も言わずに聞いていた。

「所帯なんて…俺には縁のないものだと思ってた」

守れなかった。

その事実だけが、言葉の奥に残る。

「二年にも満たない短い時間だったけどな…でも、確かに、幸せだった…」

その一言で、道場の空気が更に沈んだ。

斗亜は小さく息を吐く。

「こんな俺でも…帰る場所はあった…」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

「今の俺には、守るものが何一つない」

寂しげに笑い、剣心へ視線を向ける。

剣心は言葉を失い、弟が背負ってきた歳月を抱き締めるような眼差しで見つめていた。

その時…。

「っ…」

小さく息を呑む音が聞こえ斗亜が視線を上げる。

薫だった。
/ 120ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp