第3章 因縁の残響
床一面に広がる血。
壁に飛び散った赤。
歪んだ模様を描いている。
倒れた家具。
砕けた器。
裂けた畳。
これは戦ではない。
虐殺だ。
全身の血が一瞬で凍てつく。
「あんたたち…っ!」
視線を上げる。
血まみれの空間の中で、“それ”はゆっくりと振り返った。
女将。
かつての宿の連中だった。
「フン…何が幸せだい?」
返り血を浴びたまま、歪んだ笑み。
「この子たちすら守れないくせに」
瞳に満ちる、底のない悪意。
ドクン。
斗亜の中で、何かが軋む。
女将の背後。
三人の男。
包丁の刃先から、桜の血が滴っている。
「お前も死にな!!やっちまいな!!」
四人が一斉に斬りかかる。
ドクン。
ドクン。
時間が歪む。
音が遠のく。
胸の奥で押し込めていた“声”が、ゆっくりと目を覚ます。
守れなかった。
桜も。
幸太も。
あの小さな手。
熱い額。
笑っていた顔。
全部…遅かった。
捨てたはずの衝動が、確実に燃え上がる。
斗亜の目の色が変わる。
影に生きる修羅が、そこに立っていた。
四人の斬撃が、あまりにも遅く見える。
返り血の匂い。
桜の倒れた姿。
幸太の沈黙。
すべてが、斗亜を完全に壊していく。
刹那。
斗亜の足が地を蹴った。
踏み込んだ感触すら、意識に残らない。
一瞬の出来事だ。
本当に、瞬きほどの出来事だった。
視界の端に映る、血の海。
その中で、桜に抱かれたまま動かない幸太。
斗亜の頬を、ひと筋の涙が音もなく滑り落ちた。
ザシュッ!!
空気が裂ける。
遅れて、血が舞う。
四つの影が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
斗亜の呼吸は、乱れない。
怒りのためでも、憎しみのためでもない。
“殺意を終わらせるため”だけに振るわれた一太刀。
それだけだった。