第3章 因縁の残響
次の瞬間。
カラン…。
カラン…。
折れた刃が、力無く地面を転がっていた。
「お前ら…」
低く、凍てついた声。
「人間のすることじゃねぇよ…」
ただ一振り。
それだけで、すべての包丁が真っ二つに折られていた。
現実離れした光景に、宿の連中の顔から血の気が引く。
「剣客…さん…?」
桜が、涙に濡れたまま斗亜を見る。
その声が、斗亜の胸を貫いた。
「なんだい!またあんたか!!」
女将の怒号が飛ぶ。
「丁度いい!!」
「お前も殺す!!」
男二人が腰の刀を抜く。
浅い。
愚かすぎる殺意。
斗亜は、ゆっくりと振り返る。
「桜…」
一拍。
「俺と、夫婦にならないか?」
そして穏やかに言った。
その声は、嵐の中心のように静かだった。
「親戚だろうがなんだろうが、身内に刃を向けるような連中を、俺は見過ごせない」
桜の目が大きく見開かれる。
次の瞬間、堪えていたものが一気に溢れ出した。
ぽろり、ぽろりと零れる涙。
恐怖がほどけ、救われたという実感が胸いっぱいに広がる。
何度も、何度も頷く。
「剣客さん…ありがとう…」
それは、確かに“助けられた者”の声だった。
「まとめて、あの世でくっつけ!!!」
怒号とともに、二人の男が同時に斬りかかる。
スッ。
斗亜が刃を逆手に構えた、その一瞬。
男たちは、自分たちの身に何が起きたのか理解出来なかった。
次の瞬間には、力を失った体が同時に地面へ崩れ落ちていた。
「あ…あぁ…つ、つえぇ…」
従業員の一人が、喉を震わせて呟く。
「二度と、人に刃物を向けるな」
血一滴浴びることなく、斗亜は淡々と言い放った。
そして振り返る。
「行くぞ、桜」
「はい…お世話になりました」
桜は深く頭を下げ、斗亜の背を追う。
二人は、そのまま町を後にした。