第3章 因縁の残響
「剣客さんは…旅をしてるんですか?」
「あぁ、困ってる人の力になりたくてな」
それは偽りのない本音だった。
少女は目を細め、心からの笑顔を向ける。
「素敵、ですね!」
少し照れたように続ける。
「私には出来ません。一人でも多くの人の力になってくださいね」
そして…。
「あ、私…桜。花咲桜って言います。では…」
小さく手を振り、駆けていく。
その後ろ姿は、春の風に舞う桜の花びらのように儚かった。
「一人でも…多く、か…あ、手拭い…」
手のひらの中の桜柄の手拭いを見つめ、そっと握り直す。
その日からだった。
ほんのわずかな時間。
だが斗亜にとって、それは確かな救いになっていく。
血ばかり見てきた胸の奥に、小さな明かりが灯る。
幸福な時間ほど、脆い。
それを、斗亜は誰よりも知っていた。
ある朝、桜は姿を見せなかった。
「今日…来ないな…」
ほんの小さな違和感だった。
だがそれは、胸の奥でゆっくりと冷たい形を取り始める。
嫌な予感がする。
理由のない焦燥。
気付けば斗亜の足は、宿の方へ向かっていた。
無意識だった。
考えるより先に、体が動いていた。
人通りのない街道の先で、“それ”を見た。
地獄だった。
桜が、取り囲まれていた。
包丁を手にした宿の連中。
数日前みた女将も居る。
だがその目には、もう人間の色がなかった。
露骨な悪意。
濁った殺意。
「お前!あの剣客とどういう関係なんだ!?」
「そうだよ!あの剣客と居るのを見られて客が寄り付かなくなったんだ!!」
「こいつ殺せば、もう近寄らねぇんじゃねぇか?」
桜は震えている。
当たり前だ。