第3章 因縁の残響
「しょうがないんです。両親が亡くなって、私を引き取ってくれた親戚で…お世話になっている身分ですから…」
言葉の最後が、少しだけ弱くなる。
それでも、ぺこりと頭を下げる。
奥から再び怒鳴り声が飛び、少女は慌てて駆け戻っていった。
斗亜は、その背中をしばらく見送る。
風が吹く。
宿の板壁がぎしりと軋む。
古さと貧しさが、寒さよりも先に伝わってくる。
「しばらく、この町に居るか…」
自分でも驚くほど自然に、言葉がこぼれた。
守りたい、と思ってしまった。
一度心を預ければ、壊れる未来しか知らないというのに。
小さな宿を見つめながら、胸の奥にわずかな痛みが灯る。
それが、消えない予感のように残った。
語りの途中で、思わず斗亜は目を伏せた。
剣心が静かに目を細める。
「…名は?」
斗亜は、首を横に振る。
「その時は、まだ知らない。聞く前に…もう、居なくなったからな」
剣心は意味を掴み切れない。
だがその横顔の寂しさが、胸に鋭く刺さった。
道場の灯りが揺れる。
夜の気配が、静かに通り過ぎる。
斗亜は、再び語り始めた。
翌朝。
空気はひんやりと澄み、川辺には薄い靄が漂っている。
流れる水は冷たく透明で、朝日を受けて煌めいていた。
斗亜は水面に映る自分の顔に手を伸ばし、ばしゃりと水をかける。
バシャッ。
バシャッ。
その時。
「あ…」
か細い声が聞こえた。
顔を上げると、昨日の少女が川で水を汲んでいた。
朝日を浴びたその姿は、昨日よりも柔らかな笑みを纏っている。
「あ…昨日は、大丈夫だった?」
少女は屈託なく笑った。
「おはようございます!大丈夫ですよ!もう慣れっこですから」
その“慣れっこ”という言葉が、妙に重く響いた。
彼女は手拭いを差し出す。
白地に淡い桃色の桜柄。
大切に使われてきた手拭いだと、すぐに分かる。
「これ、使って下さい」
「あ、ありがとう」
斗亜は微笑み、受け取って顔を拭う。