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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


「その時…出会ったんだよ」

遠い日の記憶を話していく。

「そこ行く剣客さん。ウチの宿はどうですか?」

振り返ると、まだ十六、七ほどの少女が立っていた。

華奢な体つきだ。

決して上等とは言えない着物を、それでもきちんと整えている。

茶色の髪は丁寧に結われ、ほつれ一つない。

そして控えめに浮かべた、遠慮がちな笑み。

「いや、先を急いでいるから…」

そう答えると、少女の目がほんの一瞬だけ伏せられた。

影が差す。

だが次の瞬間には、無理をするように笑顔へ戻っていた。

「そうですか。またここに寄った時にはお願いしますね」

弱々しいのに、どこか必死な強さがあった。

その笑顔が、妙に胸に残る。

斗亜はしばらくその横顔を見つめ、歩き出そうとした。

「あんた!!客呼びちゃんとしてんのかい!?今日一人も客来ないじゃない!!」

バシッ!

「きゃっ」

乾いた音に、少女の悲鳴。

振り返るより先に、理解していた。

叩かれたのだと。

古びた宿の前で、少女が女将らしき中年の女に怒鳴られていた。

「本当に何も出来ないね!!あんたを引き取ったのが大間違いだったよ!!」

もう一度、女将の手が振り上げられた。

少女は目をぎゅっと閉じた。

叩かれることを前提にした反応。

慣れ切った、諦めの仕草。

それが、余計に胸を抉った。

だがいつまで待っても、痛みは来ない。

恐る恐る目を開けた少女の視界に入ったのは、斗亜の背中だった。

「すぐに手をあげるのは、どうかと思いますけど?」

穏やかな声。

だがその温度は、凍てつく程低い。

「なんなんだい、あんた!余計な口出しはしないでおくれよ!」

「人が傷つくのを、黙って見てられない性分でしてね」

わずかに口角を上げる。

だがその瞳は、笑っていない。

女将は舌打ちし、ぶつぶつと吐き捨てながら奥へ引っ込んでいった。

残された少女は、慌てて深く頭を下げる。

「すみません…ありがとうございました」

「あの女将、いつもああなの?」

少女は困ったように笑い、肩をすくめた。
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