第3章 因縁の残響
大久保は目を細め、深く頷いた。
「そうか…一週間後、改めて返事を聞きに来る」
「大久保さん…」
剣心の声が大久保を引き止める。
「十年前より…随分とやつれましたね」
「旧時代を壊すより…新時代を築く方が、はるかに難しい」
柔らかく、どこか哀しい笑みだった。
「いい返事を、期待している」
上着を翻し、川路を伴って道場を後にした。
大久保の背中が闇に溶け、戸が静かに閉まる。
斗亜は疼く腹部に手を当てる。
「志々雄が生きているなら…俺が終わらせる」
ほとんど息のような声。
その言葉は、確かに剣心の耳に届いていた。
「斗亜…」
剣心が口を開いた。
「先ほどの…守るものは何一つない、という言葉。まるで命を捨てる覚悟のように聞こえたでござる」
薫も、弥彦も、左之助も、恵も誰も口を挟まない。
道場の灯りが、静かに揺れている。
「共に修行をして別れた後…何をしていたのか、聞かせてはくれぬか?」
斗亜は視線を落とした。
板の間の木の模様をなぞるように見た。
「兄貴が喧嘩別れして山を下りてから、二年後だ。俺も同じように喧嘩別れして…師匠の元を去った」
道場の空気がまた、重く鎮まる。
「十三で山を下りて…まさか兄貴が人斬り抜刀斎になってたなんて正直、驚いたよ」
口元がわずかに歪む。
「まぁ…俺も腕買われて、人斬り抜刀斎になったけどな…」
剣心は何も言わず、斗亜を見る。
「その後、何年かして…志々雄に粛清の命が下りた。殺したと思ってた…その時に俺は腹部に一生消えない大怪我を負って身を隠して傷を癒した。もう限界を感じて志士をやめた」
斗亜の視線が遠くなる。
はるか昔を見るように。
「それで全国を回り始めた。人斬り時代に斬った人たちの償いの意味も込めて…。身内が居れば、最期の言葉を伝えて…」
そこには血に染まった時間と、孤独な旅路の重みがあった。