第3章 因縁の残響
誰も、すぐには答えられない。
だが大久保は、目を伏せて静かに頷いた。
「そういうことになる」
「無論、タダでとは言わん。報酬は十分に支払う。加えて曖昧にしてきた違法行為も超法規的に認めよう。たとえば…阿片密売の高荷恵の件…」
川路は話しつつ、視線が恵へ向く。
恵は一瞬で理解した。
取引だと。
バンッ!!
恵の手が床を打つ。
「冗談じゃないわ!そんな材料にされて剣さんの枷になるくらいなら、私は死刑台を選ぶわ!!」
その言葉に皆が息を呑み、恵を見る。
「大久保卿…あなたが今、人斬り抜刀斎を必要としていることは分かります。でも…剣心も、斗亜さんも…今は人斬り抜刀斎じゃないんです」
涙を堪えながら薫は言葉を続ける。
「私たちは…絶対に、京都へ行かせません」
そこには、仲間を守る者の強さがあった。
「馬鹿者がっ!!」
川路が激昂する。
「貴様らは事の重大さが分かっておらん!!」
「よしたまえ、川路君」
大久保の一言で、空気が鎮まる。
深く息を吐き、ゆっくりと一同を見渡す。
「これほど重大な話だ。すぐに答えを出せと言っても無理だろう。一週間、考えてくれ。五月十四日…その時、返事を聞きに来る」
大久保は立ち上がり、背を向ける。
「大久保さん」
斗亜の低い声が、大久保を引き止めた。
大久保は振り返る。
まっすぐ大久保を見る。
「俺が行きます」
全員が息を呑む。
「俺の任務失敗が、全部を狂わせたんだ。兄貴を巻き込まないでほしい。兄貴は、ここで仲間と平和に暮らしている。俺にはもう…守るものが何一つない」
斗亜の声には、すでに死を受け入れた者の冷たい覚悟があった。
「斗亜っ!」
剣心が声を荒げる。
斗亜は剣心を見て、かすかに微笑む。
それは自分の命を差し出すと決めた者だけが浮かべる、危うい笑みだ。