第3章 因縁の残響
だが大久保は視線を逸らさない。
「志々雄…真実…」
斗亜が重く噛み締めるように呟いた。
「拙者が“遊撃剣士”として表に出た後“影の人斬り”を引き継いだ男だ」
剣心の視線が、ゆっくり斗亜に向けられる。
「拙者の弟の斗亜と共に、その役を担ったもう一人…志々雄真実。言わば“人斬り抜刀斎”の後継者でござる」
その言葉が落ちた瞬間に、道場の空気が音を失った。
凍てつく、という表現すら生ぬるい。
呼吸の仕方すら忘れるほどの静寂だ。
「人斬り抜刀斎の…」
「後継者…」
「兄弟で…人斬り…」
薫と弥彦、左之助と恵の視線が斗亜へと集まる。
「完全に影に徹していた…だから…その存在を知る者はいない」
斗亜が静かに口を開く。
剣心もゆっくりと頷く。
「前任者の拙者ですら、直接の面識はござらん」
斗亜の指先が、微かに震えた。
それはほんの微細な動きだった。
だが、長い年月が押し殺してきた記憶が、今まさに浮かび上がろうとしている証拠だ。
「でも…」
喉の奥から声を引きずり出すように言う。
「志々雄は…俺が殺したはずだ…」
それは自分自身に言い聞かせ続けてきた言葉だった。
罪悪感、恐怖、憎悪、後悔。
あまりにも多くの感情が、その一言に凝縮されていた。
剣心が目を細める。
「やはり…そうか」
淡々とした剣心の声。
「外部に漏れてはまずい所業の実行者を、さらに秘密裏に消す…あの荒んだ時代では、珍しくもない」
斗亜を見る。
「よく、お前は無事だったな」
斗亜は息を吸い、無意識に腹部を押さえた。
そこに刻まれたのは、志々雄の暗殺で決して癒えることのない刀傷だ。
「俺だって…志々雄と斬り結んだとき、一生消えない傷を負って、生死を彷徨った」
低く、押し殺した声になる。
「志々雄の仲間だった連中に…何度命を狙われたか…」
その告白に薫は口元を押さえ、恵は静かに目を伏せる。
左之助は拳を震わせる。