第3章 因縁の残響
そこに立っていたのは、長い黒衣を風に揺らし場の空気を一人で支配する男だった。
口ひげを蓄えた威厳のある顔。
鋭い眼光が、すべてを見渡している。
元・薩摩藩維新志士、明治政府内務卿の大久保利通だ。
「正気に戻れ、斎藤!!」
腹の底に響く声。
「抜刀斎たちの力量を測るのが、お前の任務だったはずだろう!!」
斎藤が舌打ちする。
「チッ…大久保卿かよ…」
大久保は道場へ踏み入る。
斎藤、剣心、そして斗亜へと順に視線を向けた。
「君の新選組としての誇りの高さは、十分に承知している。だが私は君にも緋村にも、こんな場所で無駄死にしてほしくはない」
大久保は静かに続ける。
「止めてくれて、ありがとう…緋村斗亜」
斗亜は納刀し、大久保に軽く頭を下げる。
「いえ…それより大久保さん。久しぶりですね」
その言葉に、大久保の口元がわずかに緩む。
「あぁ…本当に久しぶりだな。元気そうで安心した。実はお前を探していたんだ。二人とも…少し、話を聞いてもらえるか?」
剣心は逆刃刀を納め、大久保へ向き直る。
「あぁ、力ずくでもな」
その言葉に、大久保は小さく頷いた。
その脇を斎藤が通り過ぎる。
苛立ちを隠そうともせず。
「フン…久々に熱くなれたと思ったら、途端に白けた」
肩に制服の上着を引っかけ、吐き捨てるように出口に向かう。
「決着は…またの機会だな。任務報告。緋村剣心は…今は、全く使い物にならない。だが、“緋村抜刀斎”ならそこそこ使える。緋村斗亜は頭脳戦論外。だが剣は俺と互角…以上だ」
「んだとっ!!?」
感情の一切を削ぎ落とした声で、淡々と告げる。
斗亜は思わず声を荒げる。
だがその声は、すでに斎藤の背中には届かない。
「斎藤の背後にいるのは…あんたか。元・薩摩藩維新志士、明治政府内務卿の大久保利通」
剣心が大久保を見ながら言った。