第3章 因縁の残響
「あなた…剣心の弟さんなんでしょう?お願い…止めてください!!」
斗亜は一瞬だけ彼女の瞳を覗き込む。
そこにあったのは、ただ一つ。
守りたいという、あまりにも真っ直ぐな願い。
修羅の世界には存在しない光だ。
「しょうがないな…」
困ったように息を吐く。
「そんなに泣くな」
この声は、戦場のものではなかった。
剣心と同じ、人の側に立つ者の響きだった。
その奥には冷え切った決意が、確かに宿っていた。
「すぐ止めてやるさ。少し待っててくれ」
薫の涙を受け止めるように、ほんのわずかに和らぐ。
その間にも剣心と斎藤は、互いに最後の一撃を心に定めていた。
決着が着く前に止めなければならない。
腰に巻いてある下げ緒をゆっくりと解く。
抜刀術の構えになる。
次の瞬間…。
スッ。
斗亜の姿が、薫と弥彦の視界から消えた。
刹那。
剣心と斎藤の間に、影が落ちる。
キィィィィィィン!!!
長く引き裂かれるような金属音が、道場全体を震わせた。
誰も言葉を発することが出来なかった。
斎藤の牙突は斗亜の刀によって、寸分の狂いもなく止められている。
剣心の飛天御剣流は斗亜の鞘一本で、完全に封じられていた。
その中で斗亜は、二人の“致命”だけを正確に断ち切っていた。
「な…なんだ、あの刀…」
弥彦の声が震えた。
「刃が…ぶ厚い…」
斗亜の刀は、斬れない。
一見すれば日本刀。
だが刃は異様に熱く、鋭さを持たない。
今は“斬れない刀”で命を守っている。
その事実が、何より雄弁だった。
「あんたらさ!いい歳して、熱くなりすぎ」
声は淡々としている。
その直後。
「やめんか!!!」
怒号が響いた。
空気そのものを叩き割るような声が道場を震わせる。
完全に止まった。
全員の視線が道場の入口を向く。