第3章 因縁の残響
「まぁまぁ。静かに見てようぜ…あの二人をさ」
斗亜は人差し指を唇に当て、くすりと笑った。
剣心とよく似た、だけどどこか温度の違う笑み。
どこか冷たく、闘いの結末を知っている者のような残酷さを帯びていた。
薫と弥彦は、思わず息を呑む。
言葉に出来ない“何か”が、背筋を撫でた。
斎藤は制服の胸元を乱暴に緩める。
布が擦れる音すら、殺気を孕む。
その視線が、真っ直ぐ剣心を射抜いた。
「お前は赤末如きに手こずった」
低く、地を這うような声。
「不殺の流浪人その生き方が、お前を確実に鈍らせたんだ」
床板が軋む。
焦げ付くような殺気が、道場の空気を満たしていく。
それはまるで、幕末へと引き戻す刃。
過去の“抜刀斎”を呼び覚まそうとするかのようだった。
「剣心が…」
「弱い…?」
薫と弥彦の声が震える。
剣心の目は揺るがない。
「斎藤、お前がどう思おうが構わん」
決して折れない声。
「今の拙者は、自分の目に映る人を守れる流浪人としての強さがあれば、それでいい。人を殺める人斬りとしての強さなど…もう必要ござらん」
迷いも、後悔もない。
守るための剣を選び取った者だけが持つ、揺るぎない覚悟がそこにあった。
斎藤は露骨に鼻で笑う。
「甘ぇんだよ」
制服の前を大きく開け、腰の刀に手を添える。
「お前の“今”を全部否定したやる!いくぞ!!」
ダッ!!!
斎藤の足が床を蹴り抜いた。
衝撃が道場全体を揺らす。
牙突だ。
新選組三番隊組長の名と共に刻まれた、殺すためだけの突き。
一直線。
一切の無駄を削ぎ落した、純粋な“死”。
伸びた刃が空気を裂き、圧そのものが迫ってくる。
バッ!!
逆刃刀を抜き、勢いよく弾く。
床板に火花が飛び散る。
薫と弥彦は、息をすることすら忘れる程だ。
だが剣心は、その刹那を越える。
舞うように跳躍する。
空中で逆刃刀を構え直す姿は、京の闇を駆け抜けた伝説そのもの。