第7章 新たな道標
それでも、その一言には確かな温もりがあった。
――帰ろう。
そう言われているような気がした。
斗亜は一度だけ河川敷へ視線を向ける。
夕陽に照らされた家族の姿は、少し遠くへ移っていた。
子どもが笑いながら駆け回り、その後を父親が追いかける。
母親の優しい笑い声が、風に乗って微かに届いた。
その光景を胸にしまうように、斗亜はゆっくりと息を吐く。
「あぁ…」
短く返事をして、剣心の方へ歩き出した。
土手を上る途中で、弥彦が隣へ並ぶ。
「何ぼーっと見てたんだよ」
「別に」
素っ気なく返す。
「絶対ウソだろ」
「うるせぇ」
すぐに返すと、弥彦は肩をすくめて笑った。
前を歩く薫が振り返る。
「斗亜、荷物お願い」
そう言って包みを差し出した。
「人使い荒ぇな」
ぼやきながら受け取る。
「一番力あるんだから、こういう時くらい働いてもらわないと」
薫が悪戯っぽく笑う。
斗亜は肩を竦め、小さく笑った。
「まぁ、それもそうか」
四人で並んで町へ向かう。
さっきまで一人で歩いていた道。
今は四人分の足音が、ゆっくりと重なっていた。
斗亜はもう、河川敷を振り返らなかった。
それでも胸の奥には、夕陽の中で笑う家族の姿が静かに残っていた。
町へ戻る頃には、西日も少しずつ傾き始めていた。
店先を照らす橙色の光が石畳へ長く伸び、買い物帰りの人々が家路を急いでいる。
弥彦は荷物を抱えながらも先へ先へと歩いていく。
薫は包みを見比べながら、
「味噌は買ったわよね?お醤油もあったわよね?」
と、買い忘れがないか確認していた。
その少し後ろを、斗亜と剣心が並んで歩く。
しばらく言葉はなかった。
聞こえるのは草履が石畳を叩く音だけ。
カラン…。
コロン…。
一定のリズムが、静かな夕暮れへ溶け込んでいく。
やがて斗亜が、小さく口を開いた。
「兄貴…」
「なんでござる?」
剣心は穏やかに視線だけを向ける。
斗亜は少しだけ黙った。