第7章 新たな道標
その穏やかな景色の向こう側。
一組の家族が楽しそうに遊んでいた。
幼い子どもが父親の手を引きながら駆け回る。
転びそうになるたび、父親が笑って抱き上げる。
その様子を母親が優しい笑顔で見守り、楽しそうな笑い声が風に乗って届いた。
「……」
斗亜は土手の上で立ち止まる。
何も言わず、その光景だけを見つめていた。
胸の奥が、ゆっくり締め付けられていく。
自然と浮かぶのは、もう会えない二人だった。
縁側で湯呑を両手に包みながら笑っていた桜。
『無理しないで』
柔らかく微笑む、その声。
小さな手で自分の指を握りしめてきた幸太。
弾むような笑顔。
夕焼け。
草の匂い。
優しい風。
幸せだった、あの日々。
「もう…」
斗亜はゆっくり土手へ腰を下ろす。
膝に肘を乗せ、額を預ける。
「会いてぇよ…」
誰へ向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
返事はない。
あるのは、川を渡る風の音だけ。
その静けさを破るように、不意に後ろから声が掛かった。
「斗亜、迷子でござるか?」
「…っ」
肩がぴくりと跳ねる。
振り返ると、そこには剣心が立っていた。
夕日に照らされた緋色の髪。
穏やかに細められた瞳。
いつもと変わらない、安心する笑顔。
斗亜は照れ隠しのように視線を逸らす。
「違ぇって」
立ち上がりながらぶっきらぼうに返した。
「何しに来たんだよ」
「買い出しでござるよ」
剣心は荷物を少し持ち上げて見せる。
その後ろから薫が笑顔で手を振った。
「見つけたわよ」
さらに弥彦が口元をにやりと歪める。
「町をふらふら歩いてるから、本気で迷子かと思ったぜ」
「だから違ぇって言ってんだろ!」
即座に言い返す斗亜。
その反応がおかしくて、薫は肩を震わせながら笑う。
剣心も口元に小さな笑みを浮かべ、静かに口を開いた。
「斗亜も、荷物持ちを手伝ってくれぬか」
剣心の声は、いつもと変わらず穏やかだった。
何も尋ねない。
河川敷で何を見ていたのかも。
何を思っていたのかも。
何も聞かない。