第7章 新たな道標
斗亜は勢いよく体を起こした。
「よしっ!」
立ち上がり、そのまま部屋へ戻ろうと道場を出る。
すると庭先から、一定のリズムで竹刀を振る音が聞こえてきた。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
視線を向けると、弥彦が汗を流しながら素振りをしている。
斗亜は口元を緩めた。
「おい、弥彦」
「ん?」
竹刀を止め、弥彦が振り返る。
「稽古、付き合え」
「…はぁ?」
露骨に嫌そうな顔になる。
斗亜は肩を鳴らしながら笑った。
「兄貴にやられっぱなしじゃ終われねぇ」
「だからって俺で憂さ晴らしすんな!」
弥彦が即座に叫ぶ。
「違ぇよ」
斗亜は苦笑しながら首を振った。
「体が兄貴の間合いを覚えちまってる。少し動き直したいだけだ」
そう言う斗亜の目は、まだ戦いの熱を宿したままだった。
弥彦はその顔を見て、大きくため息をつく。
「たく…しょうがねぇな」
竹刀を肩へ担ぐと、斗亜の横へ歩いてくる。
二人は並んで再び道場へ戻った。
「三本勝負な」
斗亜が当然のように言う。
「一本!」
弥彦は即座に却下した。
「三本」
「一本!」
「三!」
「だから俺が持たねぇって!」
道場へ戻るまで言い合いは終わらない。
そのやり取りは台所まで届いていた。
味噌汁をよそっていた剣心が、思わず笑みを浮かべる。
「若いでござるな」
薫もくすっと笑いながら椀を並べた。
「ほんと、朝から元気ね」
二人の賑やかな声を聞きながら、朝餉の支度はゆっくりと進んでいった。
夕刻。
西日が町並みを橙色へ染め始める頃。
斗亜は一人、町を歩いていた。
目的地は決めていない。
気の向くまま、足の向くまま。
商家の軒先を過ぎ。
細い路地を抜け。
石橋を渡る。
考え事をしているうちに、いつしか町外れの河川敷へ辿り着いていた。
川面を渡る風が草を揺らし、夕日に照らされた水面がきらきらと輝いている。