第7章 新たな道標
いつの間にか星はさらに増えていた。
深い夜空へ無数の光が散りばめられている。
その一つひとつが、剣心から聞いた思い出の欠片のように思えた。
それだけでは形にならない。
けれど、少しずつ集めていけば。
失ったはずの景色も、きっと心の中で輪郭を取り戻していく。
斗亜は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「これからは、俺が覚えていく」
その声を聞き、剣心は静かに頷く。
「あぁこれから毎日、積み重ねればよいでござる」
二人は並んで家の中へ戻っていく。
台所から聞こえる水音。
薫の明るい笑い声。
廊下を駆け回る弥彦の足音。
そんな何気ない生活の音が、今は何より愛おしかった。
斗亜は静かに思う。
思い出せない過去があってもいい。
記憶が途切れていてもいい。
自分のことを覚えていてくれる人がいる。
そして、これから先、自分の手で積み重ねていける日々がある。
それだけで十分だった。
縁側に広がっていた夜空は、もう背中の向こうにある。
それでもあの星空は、今夜聞いた家族の記憶とともに、静かに胸の中へ灯り続けていた。
京都から帰って来て、数日がさらに過ぎた。
朝露の残る空気がひんやりと澄み、道場の周りには鳥のさえずりだけが静かに響いていた。
弥彦は眠そうに目を擦りながら、道場の戸へ手を伸ばす。
「ふぁぁぁぁ…ねみぃ…」
大きなあくびを一つして、いつもの朝と変わらない気分で戸を横に滑らせた。
ガラッ。
その瞬間だった。
道場の中の空気が、一変する。
「…っ!?」
思わず息を呑んだ。
道場の中央で、剣心と斗亜が竹刀を構え静かに向かい合っていた。
互いに一歩も動かない。
微動だにしないその姿は、まるで時間だけが止まってしまったようだった。
だが、静かなのは姿だけ。
二人の間には、肌を刺すような緊張感が満ちていた。
弥彦の背筋を、ぞくりと悪寒が走る。
自然と足が止まった。
不用意に踏み込めば、その空気すら壊してしまいそうで動けない。
呼吸をすることすら忘れ、ただ二人を見つめる。
剣心は自然体。
肩の力は抜けているのに、一切の隙がない。