第3章 因縁の残響
「あー…いや…」
頬をぽりぽりと掻く。
「その可能性があったか…」
斎藤の眉間のシワが深くなる。
「別にいいじゃねぇか。苗字名乗らなかったんだから大丈夫だっての~」
斗亜は呑気な声で言葉を継ぎ足す。
「阿呆が…」
即答だった。
「うるせぇな…」
斗亜は唇を尖らせる。
「つーか、兄貴が俺のことペラペラ話すような性格か?だって10年以上も会ってないんだぜ?生きてるか、死んでるかも分からねぇのに…」
言いながら、ふと首をかしげる。
「話してる可能性も、なくはないか」
自分で言ってから、微妙な顔になる。
斎藤の冷たい視線が突き刺さる。
「まぁ、何言っても会うんだから別にいいだろ」
開き直ったかのように、肩をすくめた。
まるで今気づいたこと自体を、もう気にしていないように。
その能天気さに、斎藤は深くため息を吐いた。
「本当に阿呆だな」
「へっ!褒め言葉にしか聞こえねぇな」
どこか悪びれもせず、斗亜はさらりと言ってのける。
だがその横顔には、ほんのわずかだけ図星を突かれた子供のような気まずさが残っていた。
「それより…いい加減、本当のことを話せよ」
斗亜が斎藤を見ながら言う。
「でなきゃ…」
その手が、静かに刀の柄へとかかる。
抜刀の気配はない。
だが、指先には一切の迷いもなかった。
「お前を叩き斬るだけだ」
斗亜の視線は鋭く斎藤を射抜くようだ。
斎藤はその様子を見ても動じず、わずかに口角を吊り上げる。
「フッ…気が短けぇな」
「短気なんじゃねぇ。時間がないだけだ。兄貴が絡んでいるなら、尚更だ」
斎藤は小さく息をつき、一歩下がって柱に背を預けた。
「全く…」
わざとらしい間を置く。
「強いて言うなら…」
視線がまっすぐ斗亜に向く。
「緋村斗亜、お前の因縁の相手が動き出した」
「っ!?」
斗亜の指先に、ぐっと力がこもる。