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緋色の誓い

第7章 新たな道標



斗亜も何度も真似をしてきた。

それでも、自分が淹れるとどこか渋くなってしまう。

原因も分かっている。

分かっているのに、なかなか直らない。

しばらく二人は黙って茶を飲んでいた。

その静けさの中で、剣心がぽつりと呟く。

「静かな夜でござるな」

斗亜は苦笑する。

「静かすぎる。何だか落ち着かねぇ」

剣心が穏やかに笑う。

「戦の音でも恋しいのでござるか?」

「違ぇよ」

斗亜は首を振った。

「そういう意味じゃねぇ」

湯呑を膝へ置く。

ひんやりとした夜風が頬を撫でていく。

空は果てしなく広かった。

どこまで見上げても終わりがない。

だからこそ、自分だけが取り残されたような気持ちになることがあった。

言葉が途切れる。

沈黙は嫌いではない。

むしろ斗亜にとっては、言葉を交わすより自然な時間だった。

けれど今夜の静けさだけは違う。

胸の奥へゆっくり入り込み、触れられたくない場所を静かになぞっていく。

斗亜は小さく息を吐いた。

「兄貴」

「何でござる?」

剣心が静かに返す。

斗亜は夜空を見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺さ、親の顔を…ちゃんと思い出せねぇんだ」

剣心は何も言わなかった。

返事を急がない。

湯呑を置く音さえ立てず、ただ続きを待っている。

その沈黙がありがたかった。

斗亜は静かに続ける。

「顔だけじゃねぇ…声も曖昧なんだ…思い出そうとすると、霧が掛かったみてぇになる」

口にするたび胸の奥が締め付けられる。

痛みとは少し違う。

ぽっかり空いた穴へ冷たい風が吹き込むような感覚だった。

「覚えてることなんて、ほんの少しだ。父ちゃんは厳しかった。怖かったし、あんまり喋らなかった」

少しだけ目を細める。

「でも…優しかった記憶はある…」

その一言だけは迷わなかった。

斗亜は湯呑を両手で包み込む。

「一度、小さい頃に迷子になったことがある。遊びに夢中になって、帰り道が分かんなくなってさ。日も暮れて…どうしたらいいか分かんなくなった」

泣いていたのか。

それさえ思い出せない。
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