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緋色の誓い

第7章 新たな道標



「まだ!」

間を空けずに返す。

二撃目。

三撃目。

四撃目。

角度を変え、軌道を変え間合いを変える。

それでも剣心の竹刀は、いつもそこにあった。

受けるのではない。

流す。

逸らす。

気付けば、自分の力だけが空を切っている。

「…ッ」

一度だけ距離を切る。

呼吸が乱れていた。

胸が大きく上下する。

まだ数合しか打ち合っていない。

それなのに息が重い。

肺が焼けるように熱かった。

「まだだ…」

もう一度踏み込む。

今度は考えない。

体に任せる。

京都で戦っていた時のように。

命を削り合っていた、あの速さで…。



剣心との立ち合いを終えてから、数刻。

最後まで一本も取ることはできなかった。

喉元へ止められた竹刀。

胴へ添えられた一撃。

届きそうで届かなかった半歩。

何度挑んでも、その差は埋まらなかった。

「今日はここまででござる」

剣心はそう言って竹刀を下ろした。

斗亜は何も答えられないまま、その場で竹刀を握り締めていた。

悔しかった。

負けたことじゃない。

自分が思っていたよりも、体が動かなかったことが。

京都で志々雄たちと命を懸けて戦った時の自分に、まるで届いていなかったことが。

あの時はもっと速かった。

もっと踏み込めた。

もっと体が軽かった。

それなのに今は竹刀を振るたびに、その差だけがはっきりと見えてしまう。

夕餉もほとんど言葉を発さずに終えた。

誰と話したのかも覚えていない。

頭の中では、剣心との立ち合いだけが何度も繰り返されていた。



そして夜。

皆が寝静まった頃。

斗亜は一人、静かな道場へ戻ってきていた。

灯されている油皿は一つだけ。

揺れる小さな灯が畳へ長い影を落とし、道場の空気を淡く照らしている。

その静寂を裂くように、シュッと竹刀が風を切る音だけが響いた。

間を置かず、もう一振り。

シュッ。

さらにもう一振り。

斗亜は誰もいない道場の中央で、一人竹刀を振り続けていた。
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