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緋色の誓い

第7章 新たな道標



「あなたが帰ってきて、こうして隣でお茶を飲める時間」

その言葉は穏やかなのに、不思議なくらい真っすぐ胸へ届いた。

斗亜は湯呑の縁を指先でなぞる。

少しだけ照れながら、小さく答えた。

「あぁ…俺も好きだ」

桜は嬉しそうに目を細める。

「ちゃんと言ってくれた」

「うるせぇ」

照れ隠しの返事に、桜は声を立てて笑った。

風が吹く。

髪がふわりと揺れる。

桜は空を見上げ、静かに呟いた。

「こんな毎日が、ずっと続けばいいのに」

あの日の空の色。

頬を撫でた風。

湯呑から立ち上る湯気。

桜の笑顔。

そのすべてを、斗亜は今でも鮮明に覚えていた。

だからこそ苦しかった。

ふっと意識が現在へ戻る。

目の前には神谷道場の庭。

穏やかな風が木々を揺らし、遠くから町の賑わいがかすかに聞こえてくる。

手の中の湯呑はまだ温かい。

もう一口飲む。

「苦ぇ…」

やっぱり美味しくない。

苦くて、渋くて、どこか雑な味。

それでも、さっきほど嫌には思わなかった。

部屋の奥から、剣心の静かな寝息が聞こえてくる。

その音を耳にしただけで、胸の奥の力が少し抜けた。

斗亜は湯呑を包み込むように持ち、小さく呟く。

「次は、もう少しまともに淹れる」

独り言のはずだった。

けれど、その言葉は誰かへ約束するような響きを持っていた。

風が庭を吹き抜ける。

草が揺れる。

木々が葉を鳴らす。

朝から感じていた静けさの中へ、少しずつ生活の音が戻り始めていた。

斗亜は立ち上がる。

湯呑を手に台所へ向かう。

水を汲み、新しい湯を沸かす。

もう一度、お茶を淹れるために。

今度は剣心が目を覚ました時のため。

たとえ渋くても。

たとえ上手く淹れられなくても。

淹れ続ける。

その先には、桜の笑顔があり、今は剣心たちの笑顔があると知っているから。

その時。

襖の向こうから、小さな咳が聞こえた。

斗亜はぴたりと手を止める。
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