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緋色の誓い

第7章 新たな道標



夕暮れ前の柔らかな風。

干した洗濯物が揺れる匂い。

土の香り。

夕餉の支度が始まる少し前の、穏やかな時間。

桜は湯呑を両手で包み込み、くすくすと笑いながら斗亜を見つめている。

笑うたび、頬が少しだけ緩む。

その表情を見るたびに胸がくすぐったくなり、斗亜は照れ隠しに目を逸らしてしまうのだった。

「そんなに笑うなよ」

ぶっきらぼうに言うと、桜は首をかしげる。

「だって、本当に下手なんだもの」

「そこまで言うか?」

「言うわ」

桜は楽しそうに頷いた。

「渋すぎて、顔がしわしわになるもの」

「うるせぇ」

斗亜がふてくされたように返すと、桜は湯呑を差し出した。

「ほら、自分で飲んでみて」

斗亜は受け取って一口飲む。

途端に顔がしかめられた。

苦い。

渋い。

喉の奥まできゅっと締め付けられる。

その様子を見て、桜は吹き出す。

「ほらね!」

「笑いすぎだ」

「だって面白いんだもの」

桜は笑いを堪えながら続ける。

「剣は誰にも負けないのに、お茶には負けちゃうんだから」

「負けてねぇ」

「負けてるわ」

即答だった。

桜は斗亜の湯呑をそっと受け取り、急須の中を覗き込む。

「あら?茶葉、多すぎ」

「これくらい入れた方がうまいだろ」

「違う違う」

桜は笑って首を振る。

「濃ければ美味しいってものじゃないの」

今度は湯呑へ指先を添え、湯の温度を確かめる。

少し待つ。

急がない。

その一つひとつの動作が、驚くほど自然だった。

斗亜はその横顔をじっと見つめる。

何が違うのか分からない。

同じ茶葉。

同じ湯。

同じ道具。

それなのに、桜が淹れるお茶だけは不思議と優しい味がした。

「昔からなんだよ」

斗亜は少し照れくさそうに頭を掻く。

「飯は作れるのに、お茶だけはどうしても上手くいかねぇ」

桜はそんな斗亜を見つめ、笑みを浮かべたまま少しだけ表情を和らげた。

「でも、毎回淹れてくれるじゃない」

桜が優しく笑う。

斗亜は照れ隠しのように視線を逸らした。
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