第7章 新たな道標
たっぷりの水を注ぎ、火を弱める。
焦らず、ゆっくりと炊いていく。
病人の体へ負担を掛けないよう、味付けはしない。
胃に優しく、喉を通りやすく。
ただそれだけを考えながら木杓子で静かに混ぜる。
湯気とともに米の甘い香りが立ち上り始めた頃。
背後から弥彦が声を掛けた。
「斗亜、俺恵呼んでくる」
弥彦が立ち上がる。
斗亜は振り返った。
「ん?あとで俺が行くぞ?」
「いいよ」
弥彦は首を横に振る。
「俺にも何かさせてくれ」
その言葉に、斗亜は少しだけ考え込んだ。
今は、剣心のそばを離れたくなかった。
薫が弥彦の頭を軽くぽんと叩く。
「慌てて転ばないこと」
「大丈夫だって」
弥彦は笑う。
斗亜は小さく頷いた。
「頼んだぞ」
「任せろ!」
弥彦は勢いよく草履を履くと、そのまま玄関を飛び出していった。
駆けていく足音が少しずつ遠ざかっていく。
斗亜はお粥と湯呑を盆へ載せ、静かに剣心の部屋へ向かった。
襖の前で一度深呼吸をする。
「兄貴、入るぞ」
そっと襖を開ける。
剣心は変わらず布団の中で横になっていた。
咳は先ほどより落ち着いている。
それでも額に残る熱はまだ高い。
斗亜は盆を脇へ置き、畳へ膝をつく。
「粥、できた」
剣心はゆっくりと目を開けた。
「かたじけない」
斗亜は背中へ腕を回し、ゆっくりと体を起こしてやる。
支えた体は熱を帯びていた。
軽い。
いや、体重が減ったわけではない。
いつも感じる剣心のしっかりとした芯が、熱に溶かされたように頼りなく感じる。
その感覚に胸の奥がざわついた。
「食えそうか?」
「少しなら…」
剣心は椀を受け取り、慎重に口元へ運ぶ。
一口。
ゆっくりと飲み込む。
また一口。
喉を通るたび、眉がかすかに寄る。
痛むのだろう。
それでも無理に笑みを浮かべた。
「うまいでござる」
斗亜は照れ隠しのように顔を背ける。
「当然だ」
そのぶっきらぼうな返事に、剣心が少しだけ笑う。