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緋色の誓い

第7章 新たな道標



「じゃあ、魚を頼めるか?焦がすなよ」

「失礼ね」

薫は少し頬を膨らませながらも、菜箸で魚を丁寧に返していく。

焼き色を確かめ、崩さないようにそっと裏返す手つきは慣れたものだった。

その姿を横目で見た斗亜は、小さく口元を緩める。

「上手い」

「当たり前でしょ」

薫は少し得意そうに笑った。

その穏やかな空気を破るように、廊下から慌ただしい足音が近付いてくる。

「おはよー…って」

弥彦が台所を覗き込み、思わず足を止めた。

「うわ!斗亜が飯作ってる」

「そんなに珍しいか?」

「珍しい」

即答だった。

斗亜は思わず苦笑する。

「何か手伝うことあるか?」

弥彦が袖をまくりながら聞く。

斗亜は少しだけ周囲を見回した。

「じゃあ箸出してくれ」

「了解」

弥彦は返事をすると、食器棚から人数分の箸を取り出し始める。

文句一つ言わず動く姿は、少し前までの弥彦とは違っていた。

そんな様子を見ながら、薫が声を潜める。

「弥彦」

「剣心が風邪なの」

弥彦の動きがぴたりと止まる。

「え?」

表情から笑顔が消えた。

斗亜が包丁を置きながら短く言う。

「寝てるから起こすなよ」

弥彦は襖の方へ視線を向け、小さく頷いた。

「分かった」

その返事はいつもより静かだった。

けれど次の瞬間には、無理に明るい声を出す。

「じゃあ剣心が治るまで、斗亜が飯係ってことだな」

「ああ」

「毎日焼き魚頼む」

「調子に乗るな」

斗亜が軽く睨む。

弥彦はけらけら笑った。

そのやり取りに薫もつられて笑みを浮かべる。

少しだけ張りつめていた空気が、ふっと和らいだ。

ほどなくして朝餉が並ぶ。

炊き立ての飯。

湯気の立つ味噌汁。

香ばしい焼き魚。

漬物。

いつもと変わらない献立。

ただ一つだけ違うのは、剣心の席が空いていることだった。

誰もその席を見ないようにしている。

それでも視界の端には自然と映ってしまう。

いつもなら湯呑を手に穏やかに「いただきます」と微笑む場所。

今日は静かなまま、人を待っていた。

「いただきます」

弥彦が箸を取り、魚を一口食べる。
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