第3章 因縁の残響
東京の下町。
夕刻の風が、どこか湿り気を帯びた春の匂いを運んでくる。
木造の家屋が肩を寄せ合うように並ぶ中、ひときわ目を引く建物があった。
広い庭を抱え、周囲とは明らかに違う存在感。
神谷活心流・神谷道場。
堂々たる門構えに、斗亜は思わず足を止めた。
「デカい道場だな。本当に、ここに兄貴がいるのか?」
一歩踏み出しかけて、斗亜は眉をひそめる。
「ん?なんか、騒がしくないか?」
耳を澄ませば、中から遠慮のない言い合いが聞こえてくる。
「今日の掃除当番は弥彦でしょ!!どうしてやってないのよ!?」
「うっせぇな~、薫!あんな広い道場、一人で全部出来るかよ!!」
ぎゃあぎゃあと続く声は、まるで夫婦喧嘩のようだった。
「誰だ、あれ?」
「俺に聞くな」
斎藤は肩をすくめる。
「俺も、あの女とガキと昔から縁があるわけじゃない」
そう言いながらも、その声にはどこか慣れた響きがあった。
いかにも、この男らしい。
今日会ったばかりだけど、それを感じた。
二人は門をくぐり、玄関へと向かう。
斎藤が戸を叩くと、中の喧騒がぴたりと止んだ。
慌ただしい足音が近づく。
ガラッ。
勢いよく戸が開き、家主の神谷薫が姿を現した。
額に手を当て、少し困ったような笑みを浮かべていた。
「ごめんください。藤田五郎と申します。こちらの道場に、緋村抜刀斎がいらっしゃると署長に聞いたのですが…」
斎藤の言葉に、薫の表情がはっきりと変わる。
胸元に手を当て、息を呑んだ。
「剣心なら…あいにく、今は留守にしていますが…」
その声には、隠し切れない警戒と緊張が混じっていた。
剣心という名を聞いた瞬間、斗亜は兄だと確信した。
斎藤は、一歩前に出た。
「実は…未確認ではありますが緋村さんが狙われているという情報が、警察の方に入っていまして…」
「…っ!?」
薫と少し後ろに居た弥彦が、同時に息を呑んだ。
「け、剣心が!?」
「誰にだよ!!?」
弥彦は思わず声を荒げた。