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緋色の誓い

第3章 因縁の残響


刃が離れると、二人同時に距離を取る。

斎藤は薄く笑う。

「なるほどな…」

その視線は、もう測るものではない。

認めるものだった。

一歩、引いた。

間合いがほどける。

それ以上は、もう踏み込まない。

斗亜は刃を斎藤に向けたままだ。

斎藤は静かに納刀した。

張り詰めていた空気が、ふっと緩む。

「は…?」

間が抜けたような声が、斗亜の口から漏れた。

「もう、終わりか?」

懐から煙草を取り出した。

しゅっ。

マッチの乾いた音が、やけに現実的に響く。

一口、吸う。

細く煙を吐く。

「ここに時間をかけていられないんだ」

闘いの余韻を、一切引きずらない声だった。

「どういうことだ?」

問いに答えず、斎藤は踵を返す。

そのまま路地の出口へ歩き出す。

「来い」

「どこへだ?」

斗亜は眉を寄せる。

「神谷道場だ」

斎藤は歩みを止めない。

振り返りもしない。

「お前ら兄弟に“感動の再会”ってやつを用意してやる」

「っ!?」

時間が一瞬止まった。

「兄貴も、今…東京に居るのか?」

自分でも驚くほど、小さな声だった。

無意識に零れ落ちた言葉だ。

「兄貴は今何してんだ?」

「それは、お前の目で確認しろ」

しばしの間が空く。

「だがな」

わずかに声の調子が変わる。

「今の抜刀斎がどんな刀を握ってるのか、確かめる価値はある」

斗亜は息を呑む。

幼い頃、憧れの背中だった。

何をしても敵わなかった。

兄が先に山を下りた時に、もうその背を追うのは止めた。

師の比古のもとを飛び出し、京都の町に下りた。

もう兄の背を追わないつもりだったが、いつの間にか兄と同じ道に行っていた。

生きるために斬って斬って…斬りまくった。

その結果が、今の体に刻まれている。

腹を斜めに走る深い古傷。

無意識に触れて、深く息を吸う。

一瞬だけ目を閉じる。

そして、開く。

迷いはなかった。

足を踏み出す。

斎藤の背を追う。
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