第7章 新たな道標
剣心も肩を揺らして微笑む。
斗亜は流れ星が消えた夜空を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「悪くねぇな」
「何がでござる?」
剣心が穏やかに問いかける。
斗亜は少し照れくさそうに笑った。
「こういう夜も…」
その一言に、剣心は静かに頷く。
四人の肩が自然と触れ合うほど近い距離。
誰も何も言わない。
それでも、その沈黙はもう苦しくなかった。
頭上では無数の星が、変わらず優しく瞬いている。
斗亜の指先は、もう震えてはいなかった。
朝の神谷道場は、いつもより静かだった。
静かすぎた。
目を覚ました斗亜は、布団の中でゆっくりと瞼を開く。
まだ体は完全には起きていない。
それでも胸の奥に、言葉にならない違和感だけが残っていた。
何かがおかしい。
耳を澄ませる。
いつもなら聞こえてくるはずの音がない。
台所から聞こえる薪の爆ぜる音。
釜で湯が沸き始めるかすかな気配。
茶を淹れるために柄杓で水を汲む音。
古い道場は静かなようで、実は音に満ちている。
柱が軋む音。
障子が風に揺れる音。
廊下を歩く足音。
朝の神谷道場には、そんな小さな生活の音が溢れていた。
だが今朝は違う。
耳に届くのは、自分が寝返りを打つ衣擦れと、自分の呼吸だけだった。
斗亜はゆっくりと体を起こす。
布団もそのままに部屋を出た。
廊下へ足を踏み出す。
冷えた板が足裏へ伝わる。
きゅっ、と床が小さく鳴いた。
普段なら、その音はすぐ別の物音へ紛れて消える。
しかし今日は、静まり返った廊下へ長く響くだけだった。
「兄貴?」
何気なく声を掛ける。
返事はない。
斗亜は居間へ向かおうとして、不意に足を止めた。
耳が小さな音を拾う。
襖一枚隔てた向こう。
剣心の部屋から聞こえてくる呼吸だった。
「……」
斗亜の表情が変わる。
呼吸はある。
気配もある。
だが、いつもの剣心とは明らかに違っていた。
浅く、短い息。