第7章 新たな道標
そっと布団を抜け出し、足音を忍ばせながら縁側へ向かった。
夜風が頬を撫でる。
板張りの縁側はひんやりとしていて、火照った体を静かに冷ましてくれた。
斗亜は腰を下ろし、ゆっくりと夜空を見上げる。
雲一つない空。
無数の星が静かに瞬いていた。
あまりにも遠く、あまりにも変わらない光だった。
膝を抱えるように座り、ただその景色を眺める。
静かな時間だけが流れていく。
その時、背後で襖が静かに開いた。
「眠れんでござるか?」
聞き慣れた声に振り返ることなく答える。
「まぁな」
剣心は何も言わず縁側へ出ると、斗亜の隣へ腰を下ろした。
二人並んで、同じ夜空を見上げる。
言葉はない。
虫の声と、時折吹き抜ける夜風だけが二人の間を通り過ぎていく。
やがて剣心が静かに口を開いた。
「戦の後は…こういう夜が来るでござる」
斗亜は視線を空へ向けたまま小さく頷く。
「静かすぎて…落ち着かねぇ」
「そうでござるな」
短い返事。
それだけで十分だった。
斗亜の膝へ置かれた指先が、わずかに震えている。
剣心はその小さな震えに気付いていた。
それでも何も触れない。
ただ隣にいる。
それだけだった。
しばらくして剣心がぽつりと呟く。
「拙者も昔は、夜が来るのが怖かったでござる」
斗亜がゆっくり顔を向ける。
「今は?」
剣心は星空を見つめたまま微笑んだ。
「こうして空を見上げていると、不思議と心が静かになるのでござる」
斗亜も再び夜空へ目を向ける。
変わることなく瞬き続ける星々。
遥か昔から、きっと同じ場所で輝き続けている光。
「俺は…」
言葉が喉で止まる。
少しだけ間を置いて、小さく続けた。
「時々、分かんなくなるんだ。俺が…ここにいていいのか」
その声は風へ溶けるほど弱かった。