第7章 新たな道標
斗亜はそっと視線を落とした。
流れる川を見つめる。
水は何事もなかったかのように静かに流れ続けていた。
風が吹き抜ける。
草が波のように揺れる。
斗亜は小さく息を吐いた。
その吐息だけが、誰にも届くことなく風の中へ溶けていった。
斗亜はしばらく、その場から動かなかった。
草の上に腰を下ろしたまま、静かに川の流れを見つめ続ける。
穏やかな風が吹き抜け、土手の草をさらさらと揺らした。
陽を受けた水面は、小さな波をきらめかせながら途切れることなく流れている。
先ほどまで近くにいた親子は、いつの間にか河原の向こうへ歩いていた。
姿は少しずつ小さくなっていく。
それでも、子どもの弾むような笑い声だけは、ときおり風に乗って届いてきた。
その声に耳を傾けながら、斗亜は何も考えず川を眺める。
ただ流れる水を見つめ、静かな時間に身を委ねていた。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「さて…」
名残を惜しむように立ち上がると、袴についた草や土を軽く払った。
大きく背筋を伸ばし、空を見上げる。
朝よりも高く昇った陽が、柔らかな光を降り注いでいた。
「そろそろ戻るか」
誰に聞かせるでもなく呟く。
最後にもう一度だけ川へ視線を向けると、静かに踵を返した。
土手をゆっくりと上り、町へ続く道へ足を向ける。
背後では、変わらず川が穏やかな音を立てて流れ続けていた。
それからしばらく歩き続けた頃だった。
斗亜はふと足を止める。
ゆっくりと辺りを見回した。
道が二手に分かれている。
その先には小さな橋。
並ぶ家々。
見覚えがあるような気もする。
だが、どこか違うような気もした。
斗亜は首をかしげる。
「ん?」
腕を組み、もう一度周囲へ視線を巡らせる。
「神谷道場…どっちだったか?」
しばらく考える。
右の道を見る。
左の道を見る。
記憶をたどるように目を細めたあと、とりあえず右へ足を向けた。
橋を渡る。
角を一つ曲がる。
さらに歩く。