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緋色の誓い

第7章 新たな道標




居間には再び静かな朝の空気が戻る。

しばらくは箸の音だけが響いていた。

剣心は湯呑みを手に取り、ゆっくり茶を口へ運ぶ。

その途中だった。

「あ…」

小さく声が漏れる。

薫が顔を上げた。

「剣心?どうしたの?」

剣心は湯呑みを持ったまま、少しだけ困ったような顔をした。

「そう言えば…斗亜は方向音痴でござった」

一瞬、居間が静まり返る。

「「方向音痴!?」」

薫と弥彦の声がぴたりと重なった。

剣心は苦笑しながら頷く。

「幼い頃からでござる。修行時代でも、よく道を間違えておった」

薫が思わず瞬きを繰り返す。

「え…でも散歩って、この辺を歩くだけでしょ?」

弥彦も腕を組んだ。

「家の近くだし、さすがに大丈夫じゃねぇの?」

剣心は少し考えるように視線を落とす。

「そう願いたいでござるな」

その言い方に、薫と弥彦は顔を見合わせた。

嫌な予感しかしない。

薫が小さくため息をつく。

「もしお昼になっても帰ってこなかったら…探しに行きましょう」

弥彦は苦笑しながら肩をすくめた。

「そこだけは剣心と全然似てねぇんだな」

剣心も苦笑を浮かべる。

「そうでござるな」

静かな笑いが居間に広がる。

再び朝餉の時間が戻った。

けれど三人とも、心のどこかでは同じことを考えていた。

「(ちゃんと帰って来るでござろうか…)」

その小さな不安だけは、なかなか消えてはくれなかった。



その頃、斗亜は町をあてもなく歩いていた。

どこへ向かうわけでもない。

ただ、体が向くままに足を進めていく。

朝の町は活気に満ちていた。

店先には商品を並べる商人。

井戸端で話し込む町人たち。

子どもたちが笑いながら駆け抜けていく。

その賑わいの中を、斗亜はゆっくりと歩く。

頭の中には、先ほどの手合わせが何度も蘇っていた。

剣心の踏み込み。

竹刀を流す角度。

無駄のない体さばき。

「まだ…届かねぇか」

ぽつりと零れた言葉は、風にさらわれていく。

悔しさはあった。
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