第7章 新たな道標
「力が入りすぎだ、肩を落とせ、竹刀に振られるな、自分で重心を作れ」
弥彦は言われるまま構えを直していく。
斗亜は満足そうに頷いた。
「よし、その方がずっといい」
次の瞬間、斗亜が床を蹴った。
「来るぞ」
「うわっ!」
乾いた竹刀の音が、再び神谷道場へ響き渡った。
朝餉の湯気が、居間いっぱいにゆっくりと広がっていた。
炊きたての飯の甘い香り。
味噌汁から立ちのぼる湯気。
焼き魚の香ばしい匂いが食欲を誘う。
神谷道場らしい、穏やかな朝のひとときだった。
「ごちそうさま!」
弥彦は一杯目をあっという間に平らげると、すぐに茶碗を差し出した。
「薫!おかわり!」
「はいはい」
薫は呆れたように笑いながら飯をよそう。
「稽古したからって食べ過ぎじゃない?」
弥彦は口いっぱいに飯を頬張りながら答えた。
「朝からあれだけ動いたんだ!腹減るに決まってんだろ!」
「はいはい、ゆっくり食べなさい」
そのやり取りを聞きながら、剣心は静かに味噌汁を口へ運ぶ。
穏やかな時間だった。
ふと視線が斗亜へ向く。
斗亜は黙々と箸を動かしていた。
飯を一口。
焼き魚を口へ運ぶ。
味噌汁を飲む。
その動きに無駄がない。
食べる速度も驚くほど速く、あっという間に茶碗が空になっていく。
最後に湯呑みへ口を付け、一息ついた。
「ごちそうさん」
そう言うと、茶碗を静かに置いて立ち上がる。
薫が思わず目を丸くした。
「えっ、もう食べ終わったの?」
斗亜は肩をぐるりと回しながら答える。
「ちょっと歩いてくる」
「歩く?」
弥彦が首をかしげる。
「あぁ」
斗亜は軽く首を鳴らした。
「さっき兄貴と手合わせしたからな。少し体をほぐしてくる」
薫は少し心配そうな顔になる。
「遠くまで行っちゃ駄目よ?」
斗亜は振り返らず、ひらひらと手だけ振った。
「子供か!すぐ戻る」
そのまま草履を履き、門を開けて外へ出ていく。
カタン。
門が閉まる音が響き、足音はゆっくり遠ざかっていった。