第7章 新たな道標
斗亜の竹刀は狙いを外され、わずかに流れた。
その一瞬だった。
剣心の左足が静かに前へ出る。
半歩。
それだけ無駄のない踏み込み。
竹刀が最短距離を走る。
迷いも力みもない。
乾いた音が道場へ響いた。
パシン。
斗亜の肩口へ、竹刀がぴたりと触れる。
時間が止まった。
斗亜の体も、その場で静止する。
剣心もそれ以上は打ち込まない。
竹刀を当てたまま、静かに息を整えている。
道場を包む静寂。
薫はようやく止めていた息を吐き出した。
弥彦は目を見開いたまま動けない。
ほんの半歩。
たったそれだけで勝負が決まった。
剣心は穏やかな表情のまま竹刀を下ろす。
「勝負ありでござるな」
静かな声だった。
斗亜は何も答えない。
肩口へ触れた竹刀を見つめたまま、数秒、その場から動くことができなかった。
斗亜は肩口へ当てられた竹刀を見つめる。
数秒の静寂。
やがて、小さく息を吐きながら竹刀を下ろした。
悔しそうに歯を見せる。
「くっそ…まだ兄貴には勝てないか…」
「いや…」
剣心も静かに竹刀を下ろし、穏やかに微笑んだ。
「確実に強くなっているでござる。十五年前とは比べ物にならん」
「当たり前だろ…」
斗亜は鼻を鳴らす。
「俺、あの頃まだ十だぞ?」
少しだけ口元を緩める。
「まぁ、その頃でも弥彦よりは強かったけどな~」
「おい!」
斗亜の一言に、弥彦がすぐさま食いついた。
「なんでそこで俺を引き合いに出すんだよ!」
斗亜は肩をすくめる。
「分かりやすいだろ?」
「分かりやすくねぇ!!」
そのやり取りに、薫が思わず吹き出した。
「ふふっ、でもなんとなく二人似てる気がするわ」
「「似てねぇ!!」」
斗亜と弥彦の声がぴたりと重なる。
一瞬の静寂。
そして、薫が声を上げて笑った。
「息もぴったりじゃない!」
「どこがだよ!」
弥彦が抗議すると、斗亜も苦笑しながら竹刀を肩へ担いだ。
大きく息を吐く。
負けた。
悔しくないと言えば嘘になる。
それでも、不思議と晴れやかな気持ちだった。