第7章 新たな道標
衝撃を殺しながら角度をずらし、自ら間合いを作り直す。
踏み込み直す位置まで計算されていた。
互いに攻めている。
しかし、その実、互いの剣を読み合っている。
踏み込みの深さ。
重心の移り変わり。
肩へ力が入る瞬間。
呼吸が切り替わる一拍。
そのすべてを見逃さず、竹刀を交えていた。
乾いた音が少しずつ増えていく。
パァン――。
パァン――。
板張りの道場へ、一定のリズムで響き渡る。
互いの呼吸も少しずつ熱を帯び始める。
そして、その瞬間が訪れた。
二人の足が、同時に半歩だけ前へ出る。
間合いが詰まる。
ほんのわずかな変化だった。
それだけで空気が変わる。
薫は思わず息を呑んだ。
弥彦も無意識に拳を握り締める。
今までは互いを知るための剣。
だが、この一歩で意味が変わった。
ここから先は確認ではない。
十五年、それぞれが積み重ねてきたものをぶつけ合う時間だった。
斗亜が床を蹴る。
一瞬で間合いを潰す。
速い。
だが、本当に恐ろしいのは速度ではない。
踏み込みながら竹刀がしなる。
その反発を利用し、切っ先だけが生き物のように軌道を変える。
読み切ったと思った瞬間、そこにはもう別の太刀筋が生まれていた。
剣心は静かに受け流す。
視線は竹刀ではない。
斗亜の肩。
腰。
踏み込んだ左足。
体全体を見ていた。
「(深い…)」
踏み込みは昔よりさらに鋭い。
それでも体は流れない。
以前なら勢いのまま前へ出ていた。
今の斗亜は違う。
踏み込み、止まり、次の一手へ繋げる。
すべてを制御している。
剣心は静かに息を吐いた。
「(強くなったでござるな…)」
速さだけではない。
力だけでもない。
守るために振るうようになった十五年が、その剣一本一本に宿っていた。
竹刀が何度も交わる。
乾いた音が、静かな道場へ鋭く響いた。
パァン。
パァン。