第7章 新たな道標
「薫さん…どんだけ信用ねぇんだよ…」
「薫殿が心配するのも無理はないでござる」
「まぁ、三か月前に剣心道場傷つけたもんな~」
弥彦の言葉にビクリと肩を震わせる剣心を、斗亜はジロリと睨んだ。
「兄貴のせいかよ…」
「すまぬでござる…」
「分かったよ…神谷道場の床に優しい手合わせでもすっか」
「その言葉、忘れないでね!」
薫は、ようやく安心したように笑顔を見せた。
「忘れねぇよ」
斗亜は竹刀をゆっくり構える。
向かいでは剣心も静かに構えを取っていた。
竹刀同士が、わずかに鳴る。
「大体十五年振り…か。兄貴と手合わせなんて」
剣心の口元が、ほんのわずかに緩んだ。
「そうでござるな」
短い剣心の返事。
それだけで十分だった。
二人にしか分からない時間が、その一言に込められている。
道場の空気が、一気に張り詰める。
笑いは、消えた。
京都での死線を越えてきた二人だ。
その二人が、今度は神谷道場で竹刀を交える。
誰も言葉を発さない。
道場には、稽古が始まる直前の静かな緊張だけが満ちていた。
斗亜は、ゆっくりと腰を落とす。
足裏で板の感触を確かめる。
肩の力を抜き、静かに息を吸う。
そして、細く長く吐き出した。
竹刀の切っ先が、微かに揺れる。
その揺れさえ、次の瞬間には止まった。
視線だけが剣心を捉える。
喉元。
肩。
肘。
握り。
腰。
足。
一瞬で全身を見極める。
対する剣心も動かない。
視線だけが斗亜の重心を追っていた。
肩の高さ。
左足の踏み込み。
指先のわずかな力の入り方。
互いに見ているのは顔ではない。
"動き出す前の兆し"だった。
薫も弥彦も、いつの間にか息を潜めていた。
言葉はない。
竹刀を握る音さえ聞こえそうな静寂。
二人が向き合っただけで、道場はまるで別世界になっていた。
薫が静かに右手を振り下ろす。
「始め!」
その一言と同時だった。
バンッ。
斗亜の右足が床を打つ。