第6章 因縁の終焉
「…裏切るだと?てめぇのものさしで語るんじゃねぇよ。コイツは誰よりも俺を理解し、俺は誰よりもコイツを理解してる」
志々雄はそう吐き捨てるように言うと、ゆっくりと由美の顔に手を伸ばした。
煤と血に汚れたその頬に、指先が優しく触れる。
それは闘場に立つ修羅の所作ではなく、ただ一人の男のものだった。
「嬉…しい…」
由美はかすれた声で微笑む。
「初めて…私…“闘い”の中で役に立てた…それも…志々雄様の一番大事な闘いで…」
震える息を整えるように、言葉をつなぐ。
「いつも…宗の…坊やや鎌足に嫉妬していた…志々雄様にとって…“闘い”が全てなのに…私に出来ることは…お体のお世話だけ…それが…くやしくて…歯がゆかった…」
由美は志々雄を見つめる。
その瞳に、後悔はない。
「…でも今は違う…」
由美は残る力を振り絞るように、ゆっくりと志々雄の肩へ腕を回した。
「勝って下さいませ…志々雄様…由美は…一足先に…地獄でお待ちしてます…」
コトッ。
由美の腕が、力なく地に落ちる。
その音は小さかったが、闘場にいる全員の胸に重く響いた。
斗亜は、その光景に目を奪われる。
由美の姿が、かつて失った桜と重なった。
同じように、誰かを想い、誰かのために笑っていた人間。
一筋の涙が、斗亜の頬を伝った。
「死ね…」
志々雄は由美を抱いたまま、斗亜を見て低く呟く。
ゆらりと、その体が立ち上がる。
「死ねない…まだ死ぬわけにはいかない!」
斗亜は涙を乱暴に拭い、剣心の前に立ちはだかる。
「桜と約束したんだ!俺の大切な仲間を守るって!!生きる意志は…何よりも強い!!」
「違う…」
志々雄の口元が、歪む。
「何より強いのは…この俺だ」
その体から、黒い煙が立ち昇る。
血と脂と怨念が、限界を超えた熱に耐えきれず噴き出していた。