第6章 因縁の終焉
「お互い…一切の遠慮は無用だ」
「そのつもりだ!」
斗亜も一歩前に出る。
二人は同時に、刀に手をかけた。
志々雄真実の前に立った瞬間、空気が変わった。
熱を孕んだような重圧が、肌にまとわりつく。
視界の端で炎が揺れる。
焼け焦げた匂い。
血の気配。
そのすべてが、斗亜の中の“昔”を引きずり出した。
蒼雲の柄に手をかける。
指先が、わずかに止まる。
京の夜。
屋根の上を走る足音。
斬り捨てた影。
倒れていく人間を、振り返りもしなかった頃の自分。
感情を切り離し、ただ命を奪うためだけに振るっていた剣。
あの頃の自分は、目の前の男と同じ場所に立っていた。
志々雄の笑みが歪む。
「どうした。抜かねぇのか?」
その声が、過去と重なる。
人を斬ることに意味を見出していた時代。
新時代を切り拓くためだけに、剣を振るっていた夜。
斗亜の視線が、志々雄を射抜く。
包帯の奥の眼。
燃え続ける執念。
生き方そのものが、人斬りとしての信念を貫いてきた男。
「それが…お前の答えか」
斗亜は静かに呟く。
皮肉でも嘲りでもない。
ただ、志々雄という一人の男がたどり着いた答えを受け止めるような声だった。
蒼雲を握る手に力が入る。
桜の笑顔が過る。
幸太の小さな手の温もり。
縁側で茶を飲む時間。
弥彦の声。
薫の怒鳴り声。
剣心の背中。
そのすべてが、今の自分を繋ぎとめている。
「人斬りが人斬りを睨む目じゃねぇな」
志々雄が嗤う。
「俺もお前も、人斬りの後継者だった」
斗亜は、静かに答える。
鯉口が切れる。
蒼雲がわずかに鳴く。
「もう…人斬りじゃねぇ…俺は、人を守るために剣を振るう!」
その言葉と同時に、刃を抜いた。
光が走る。
炎を映して蒼く揺れる刀身。
かつて命を奪うためだけに振るった剣。
今は違う。