• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

緋色の誓い

第5章 因縁の余燼


あの日と同じように、少し困ったように笑っている。

その隣で、小さな手が伸びてくる。

幸太。

無邪気な目で、こちらを見ている。

――だいじょうぶ。

声にはならない。

けれど、確かに届く。

胸の奥に。

鷲掴みにされていた痛みが、ゆっくりとほどける。

「…違ぇよ」

斗亜の目が、カッと見開かれた。

キィィィィン!!!!

蒼雲が、男の刀を弾き飛ばす。

床に手をつく。

指に力が戻る。

「俺は一人じゃねぇ」

ゆっくりと立ち上がる。

膝が震える。

肋が軋む。

だが、背中が軽い。

いや、違う。

そこにいる。

背負っている。

桜の温もり。

幸太の小さな重み。

守れなかったはずの命が今、確かに背中を押している。

蒼雲を握る手に力が戻る。

斗亜の目が、男を射抜く。

さっきまでとは違う。

揺れていない。

静かな炎が宿っている。

「俺さえいなければ、だと…?」

低く、はっきりと言う。

「違う」

一歩、踏み出す。

床が鳴る。

「俺が弱かったからだ」

もう一歩。

「守りきれなかったのは俺だ」

蒼雲を構える。

刃が静かに光る。

「だから…」

呼吸が整う。

背中にある気配が、確かに支える。

「今度は守る」

ダッ!!!

床を蹴る。

さっきまでとは比較にならない踏み込み。

男の目が見開かれる。

キィィィィン!!!

刃がぶつかる。

だが今度は、押し返すのは斗亜だった。

男の足が滑る。

間合いを詰める。

連撃。

迷いのない剣。

「これは…」

打ち込みながら言う。

「俺一人の闘いじゃねぇ」

斬撃が火花を散らす。

「桜と…」

もう一閃。

「幸太と…」

さらに踏み込む。

「三人でやる闘いだ!!!」

最後の一撃。

男を大きく弾き飛ばす。

着地する斗亜の背中に、一瞬だけ見える。

桜が微笑み、幸太がしがみついている幻。

それはすぐに消える。

だが斗亜の足は、もう揺れない。

「この世にはなぁ…」

ゆっくりと上体を起こし、切っ先を向ける。
/ 284ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp