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緋色の誓い

第2章 始まりの合図



道の脇に伸びる草に風が通り、さらさらと音を立てる。

そのまま、空を見上げる。

高く広く、どこまでも続いている青空。

雲が、ゆっくりと流れていく。

「兄貴は今どこに居るんだろうな…」

声に出した瞬間、自分でも驚くほど素直な響きだった。

「生きてんのか…幸せになってるといいけど…」

答えは、もちろん返ってこない。

空はただ黙って、雲を運ぶだけだ。

斗亜は目を細める。

思う浮かぶのは、背中。

少し前を歩く、あの背中だ。

いつも自分より先に立ち、自分より先に迷い、自分より先に答えを出していた。

「人斬り抜刀斎が幸せに生きているなんて…変なもんか…」

小さく笑う。

まるで自分に言い聞かせている様だった。

昔は、兄を追いかけるのに必死だった。

背中が遠くて、届かなくて、それでも必死に剣を振るった。

今はどうだ。

追いついたのか。

それとも、別の道を歩いているのか。

分からない。

ただ、一つだけ確かなことがある。

あの人は、生きている。

そして、斬らずに生きているだろうか。

それだけで、十分じゃないか。

そう思える自分が居ることに、斗亜は少し驚いた。

「幸せだといいな…」

願うように呟いた。

兄の幸せを祈るなんて、昔の自分なら考えもしなかった。

剣を振るう背中しか、見ていなかったからだ。

風が吹き、雲がまた流れる。

斗亜は空から視線を下ろし、道を見る。

自分の歩く道。

兄とは違うかもしれないが、確かに続いている道。

「ま…生きてれば会う時は会うか…」

そう言って、軽く肩をすくめた。

答えは急がない。

今は、歩くだけいい。

斗亜は再び歩き出す。

空の下、のんびりと。



始まりの合図――完
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